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ミステリの祭典

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ねらった椅子
旧題『狙った椅子』

作家 ジュリアン・シモンズ
出版日1958年01月
平均点6.50点
書評数2人

No.2 7点 人並由真
(2023/04/09 16:38登録)
(ネタバレなし)
 その年の春。「わたし」こと、ロンドンの「グロス出版社」に勤務する37歳の編集者デイヴィッド(デイヴ)・ネルスンは、新創刊される犯罪実話系ミステリ雑誌の編集長の座を期待していた。が、社内でも下馬評は高かったはずだが、結果は年長の同僚で微妙になさぬ仲のウィリー・ストレイトにその座を奪われる。納得できないデイヴだが、やがて会社の周辺で予期せぬ殺人事件が発生。デイヴは事件に巻き込まれていくが、そんななか、彼は結婚8年目の32歳の妻ローズの意外な事実に触れる。

 1954年の英国作品。シモンズの第6長編で、作者の著作の日本での邦訳は、あの異色作の第4長編『二月三十一日』(原書は1950年)に続き、これが二冊目だった。
 
 旧クライムクラブ版で読んだが、実は数年前に何らかの流れで巻末の作品解説をリファレンスしようと思ったところ、終盤のページが目に入ってしまったようで? これこれこういうような記号的な立場の人物が犯人だと、認識してしまったつもりでいた(涙)。それゆえ読む意欲が相応に減退し、ずっと放ってあったが、昨夜は(自分にとっての)キズモノの作品をとりあえず一冊消化するような気分でページを開いた。
(先に結論だけ言っておくと、見たつもりの真犯人の情報はまったく錯覚であった(安堵)。まあ、こういう事は、さすがにちゃんと実物を読むまでわからないし(苦笑)。)

 内容の方は、あのニューロティックな『二月三十一日』の次の次の作品がこれかい? と後から思わず思わされるような、王道・正統派の半ば巻き込まれ、職場ものサスペンススリラー、一方でフーダニットパズラーの趣も濃厚。
 お話の流れもフレドリック・ブラウンのノンシリーズ編みたいな、良い意味で軽妙な50年代アメリカ作品のごとき作り。主人公の動きと、向こうから到来するイベントの組み合わせが心地よく、かなりリーダビリティは高い。
 作風に幅があり、いまいち作家性を大づかみに語りにくいシモンズだが、これは著作のなかでもトップクラスにとっつきやすい一冊であろう。
  
 前半から、先述のように、中規模のイベントが続出。そのなかで主人公デイヴがさる案件に着目し、そこからまた話が転がり、現状の事態の外側にストーリーが広がっていくあたりなど、実に小気味よい。
 ただし犯人(というか秘匿されていた……)は、ミスディレクションが見え見えで、あー、これは……と予期したら、大方は正解であった。というか、デイヴも<そっちの方>へも頭を回せよ、という部分がなきにしもあらず。
 そんなわけで謎解きミステリとしてはやや弱いなという部分と、それなりに組み上げた筋立ての良さが相半ばで、まあまあ佳作の上というところか。

 ただし全体のストーリーとしては、そんなミステリ部分の骨子すらひとつの大きなパーツとして取り込んだ50年代の欧米作品としてけっこう心地よい。単純に好感を持てるか否かといえば、間違いなく前者。
 なんというか、旧クライムクラブという叢書の雰囲気には、すごく似合った一作ではあった(あ、厳密にいうと、現代推理小説全集あたりの方が、よりピッタリだった感じもするか)。評価は0.25点くらいオマケして。

No.1 6点 mini
(2012/06/05 10:03登録)
* 1912年生まれ、つまり今年が生誕100周年に当たる作家は意外と多い、今年の私的テーマ”生誕100周年作家を漁る”の第6弾はジュリアン・シモンズ

米英に同時期に活躍した2大ミステリー評論家と言えば、もちろんアントニー・バウチャーとジュリアン・シモンズだ、2人は1歳しか年齢が違わず、不思議とこうした2大巨頭って生まれ年が近かったりするのな
この両者、ミステリー評論家としては甲乙付け難いが、1つだけ両者に差が有るのが実作者としての一面である
バウチャーが作家としては一流とは思えないのに対して、シモンズは作家としても優れていると私は思う
もっとも不可能トリック系本格しか読まない人だと、作家としてはH・H・ホームズ名義も含めてバウチャーの方しか興味無いかも知れないが
シモンズは我が国ではまぁまぁ翻訳には恵まれているが、不幸なのは有名な”犯罪小説移行論”が一人歩きしてしまい、評論と実作とを結び付けて書評されがちなことだ
シモンズは決してパズラー型本格を毛嫌いしてたわけじゃなく、その何たるかを熟知していたフシが有り、実際初期の1部作品は本格作品で私は未読だが初期の「非実体主義殺人事件」も訳されている
本格しか興味無い読者だとシモンズはその1冊しか読んでませんって人も居るかも知れない、ただそれだとシモンズという作家を理解するには無意味だから「非実体主義」だけしか読まないのだったら最初からシモンズを1冊も読まない方がまだ良いとは思うけど
アンソロジーでシモンズの掌編的な短篇を読んだ事が有るが、まさに謎々推理パズルそのものだったには驚いた
こう考えると作者の本領である中期の犯罪小説に対する見方も変わってくる
何て言うのかねえ、わざと本質やツボを外して書いているのでは?と思えるのだよなぁ
このツボ外しが単に小説が下手なのだとしたらシモンズもそこまでの作家だろうが、意図的に狙って書いてるとしたら恐るべき作家だよなぁ
ただこの「ねらった椅子」はあまり狙った感じがしないんだけどね

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