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ミステリの祭典

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殺人の色彩

作家 ジュリアン・シモンズ
出版日1963年01月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2020/06/03 15:56登録)
(ネタバレなし)
 1950年代のイギリス。「ベイリングス・デパート」のクレーム処理係で20代後半のジョン・ウィルキンズは、2歳年上の妻メイ、近所に住む母親メリー、メリーと同居するジョンの叔父ダン・ハントンたちと平凡な日々を送っていた。だがそんなジョンを悩ますのは彼自身に瞬間的に生じる癇癪と、さらにより重症な短期の健忘症であった。ジョンはその年の四月、図書館で働く娘シェイラ・モートンと出会い、妻帯者であることを隠して彼女をデートに誘う。しかしこれが、のちにジョンが殺人容疑をかけられて法廷に立つ事件の開幕であった。

 1957年の英国作品。石川喬司の「極楽の鬼」の書評の中のある記述に気を惹かれ、昔からメチャクチャ読みたかった作品。とはいえ古書価が高めだったのでガマンしていたが、Amazonでこないだ少し値下がりしたのですぐに注文。届いたらその日から読み出し、実質一日で読了してしまった。
 物語は三つのパートで構成。第一部「事件以前」と第二部「事件以後」で本文のほぼ大半を為し、最後のエピローグ「結末」で(以下略)。

 内容についてはあんまり書かない方がいい種類のサスペンス作品だし、法廷ミステリだが、個人的にはシモンズのこれまでの最高傑作と思っていた『二月三十一日』に匹敵するかいいところまで勝負を挑めるくらいに面白かった。今回もマーガレット・ミラー的な食感を感じさせる幕切れである。
 ただしあまりに強烈な『二月三十一日』のラストと違い、今回は最後の真相が(丁寧な伏線のおかげで)ある程度は読めてしまう面もあるので、その辺りは減点。その一方で小説としては『二月三十一日』よりもずっと読み応えがあった。

 しかし『犯罪の進行』とあわせて、この数年に読んだシモンズ作品で面白くなかったものはひとつも無いんだけれど、前述の「極楽の鬼」での石川喬司の物言いは(本作をかなり褒めながらも)「シモンズはしょせんは眼高手低の二流作家」なのね。
 評者の場合、本書を読んで、いやそんなことはないだろ、当たり外れは多少あるにせよ、シモンズはまぎれもない20世紀後半の英国ミステリ界のA級実作者だよと改めて実感したが、そうしたらTwitterで、あの川出正樹氏が2012年に
「『二月三十一日』『殺人の色彩』『犯罪の進行』『月曜日には絞首刑』『自分を殺した男』『クリミナル・コメディ』、どれも今読んで面白く眼高手低などとんでもない言いがかりだ。ちゃんと通読すれば解るけれど『ブラディ・マーダー』も単純な探偵小説排斥論の書ではない」
と喝破してるのを見つけて、大いに意を強くした(笑)。
 少なくとも石川喬司のシモンズへの物言いには、確実に問題があるよ。

 ちなみに本書ポケミスの裏表紙のあらすじだけど、記述の後半部分は実際の内容と似たようなことを書きながらかなりデタラメです。
 事件の起きる直前の経緯も違うし、殺人方法も裏表紙に書かれているような刺殺ではない。R・S・プラザーの『消された女』の裏表紙同様のいいかげんさ。
 本書巻末の解説でも『二月三十一日』を『二月十三日』と記述してあるし、責任者は署名「N」……つまり長島良三あたりか?

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