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ミステリの祭典

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壊れた偶像
カーク将軍

作家 ジョン・ブラックバーン
出版日2009年03月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 クリスティ再読
(2022/01/26 11:40登録)
ブラックバーンに恐れをなした方が多いのか(苦笑)、一番「まっとうなミステリ」に近い本作の初の書評になるようだ。いやホント、本作はSF&超常設定はとくにないから、「ブラックバーンにしては地味」と言われる作品。この評価はあくまで「当社比」だからね(苦笑)。十分にヘンではある。

イギリスのさびれた運河の街で、惨殺された女性の死体が運河から上がった...当初売春婦と見られた被害者に、東ドイツから亡命した経歴があることが割れて、外務省情報局長カーク将軍との因縁も分かった。カーク将軍は男女の部下とともに、この事件に介入することにした

というイントロなんだから、スパイ小説?とはなるんだけど、そうは問屋が卸さないのがブラックバーン。警察小説的な地道な捜査が続くから、ル・カレのスマイリー物をずっと陰鬱にした雰囲気。結構タイトなタイムスケジュールによるアリバイ調査もあったりして、ミステリ度は高いといえば、高いし、どうというほどでもないけども「トリック」めいたものも、ある。

次第に高まる鬱度。いやそこらへんを愉しむ小説だと思うんだ。処女の売春婦、盗作しかできない小説家志望の青年、両手が萎縮する障がいを抱えながらピアニストデビューを自動ピアノで夢見る少年....極めつけは、関節が逆側に折れ曲がった奇怪な偶像。黒人女性の精神科医がカーク将軍にマダガスカルの女王の奇怪な歴史を語るが...

と、「不能」な話からオカルト側に流れていく。そこがブラックバーン。超常現象はないけど、哀しく鬱でブルブルな真相。

というかね、誰が言い始めたのかよくわからないが、「ブラックバーン=ジャンル混成」論なんだけども、いやこういう「ジャンル小説」に対して作家が「忠誠心」がないのって、イギリスのスリラーの伝統だと評者は思っているんだよ。日本の読者と作家が妙に「ジャンルへの忠誠心」を誇示したがるから、奇妙に感じるのでは?と評者は思ってるくらい。カーヴだってそうじゃない?

(ちなみに、オカルトに流れる警察小説って、コリン・ウィルソンの「スクールガール殺人事件」があったね)

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