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ミステリの祭典

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黒いハンカチ
女性教師ニシ・アズマ

作家 小沼丹
出版日1958年01月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2021/10/24 16:13登録)
(ネタバレなし)
 どこかの、海の近くの住宅地、そこの高台にある「A女学院」。その屋根裏部屋のような小さな空間で休み時間に昼寝を楽しむのが、若い女性教師ニシ・アズマの日課だった。だがそんな彼女には、アマチュア名探偵という、一般には知られざるもう一つの顔がある。そんなニシ・アズマの周囲では、またも思いがけない事件が起きて……。

 創元推理文庫版で読了。
 評者が本作の存在を初めて知ったのは、たしか「本の雑誌」誌上の、何らかの企画ものの連載エッセイのなか。おそらく1990年代のことで、まだ創元文庫での復刊が叶う前だったのは確かであった。
 女性版ブラウン神父を思わせる、というニシ・アズマの名探偵キャラクターに関してはたぶんその時点で刷り込まれていたはず。
 現実に作品の本編を通して読んでみると、なるほど毎回、何となく事件の場に介在して、かねてより周囲をつぶさに観察して得ていた情報にもとづいて推理するその名探偵ぶりは確かにブラウン神父やのちの亜愛一郎の系譜に近い。
 
 創元文庫の解説によると、もともと文化実業社の雑誌「新婦人」に「ある女教師の探偵記録」の副題で全12編が連載されたらしい。美人ではないが愛らしい顔立ちで、その魅力ある容貌を太い赤縁のロイド眼鏡で隠している(いわゆる隠れ眼鏡で、主に事件が起きた際にかけたりする)というキャラクター設定は21世紀のいま、改めて昭和の萌えヒロイン探偵としての求心力も発揮する。ちなみに20代半ばの彼女の恋愛模様に関しては、第5話「十二号」のなかでそっと語られた。

 創元文庫の巻末の解説でシンポ教授も語るとおり、全12編のなかでは殺人事件も往々に主題になるが、基調は「日常の謎」ものといえる連作集の趣もあり、評者のようなバラエティ感を楽しむタイプの読み手の側からすればその作品の振り幅の広さがまた面白かった。
 ニシ・アズマの周辺には何人かの同世代の男女(一部はレギュラー、セミレギュラー)も登場するが、その辺の描写もあわせて昭和の若者たちの遅めの青春譚を覗き込むような小説的な興趣もある。

 ミステリとして面白かったのは、謎の変死事件?の「眼鏡」、別荘地での参事を扱った「蛇」、山中のロッジでの殺人事件「十二号」、パーティでの珍事「スクェア・ダンス」、ニシ・アズマの観察が斜め上? の事態に連鎖してゆく「赤い自転車」……結構あるな。
 本作の強みは「シルク・ハット」のような、他愛ないともいえる日常の謎編までが連作シリーズのアクセントになることで。
 そういう意味では適当にサクサク、この世界に浸りながら読み進めた方が楽しめると思う。

 通読すると、さらにもう一冊くらいこのニシ・アズマ主役の連作を読みたかった気もするが、まあここでこれでまとまっている故の感興というものもあるかとも思う。

 しかしこの創元文庫版、ブックオフで購入したのだが、手にしたのが2014年2月の8版。この出版不況の中で、21世紀に発掘された旧作としては結構売れているよね? 
 自分なんかようやっと作品を楽しんだ遅めの読者で、ファンのほんの末席だけれど、全国のミステリファンのあちこちに、現在形での本作の愛読者が多くいるというのなら、なんか嬉しい。

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