ホワイトストーンズ荘の怪事件 セイヤーズ、クロフツ他 |
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作家 | リレー長編 |
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出版日 | 1985年03月 |
平均点 | 5.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 5点 | tider-tiger | |
(2023/05/06 03:36登録) ~ファーランド夫人が、わたしは誰かの手で毒殺されてしまうと騒ぎ立てるので、邸内の者はみな困りきっていた。~ ↑はセイヤーズが担当した第一章の書き出しです。 1939年イギリス。6人の作家によるリレー小説ですが、とりまとめ役のチャンスラー氏(チャンドラーではありません)がプロローグを付けています。本作の面白い点は各々が担当した章を書き終えたあとに自身の構想、今後の展望、細かな注意書きなどなどを記載した作者ノートを掲載していることです。ネタバレ要素がかなりありますので作者ノートは最後にまとめて読むというのも一つの手ですが、自分は作者ノートも一緒に読んでいくことをお薦めします。 執筆者は以下の6名です。 第一章セイヤーズ 第二章クロフツ 第三章ヴァレンタイン・ウィリアムズ 第四章F・テニスン・ジェス 第五章アントニー・アームストロング 第六章デイヴィッド・ヒューム 自分が知っていたのはセイヤーズとクロフツだけでした。 トップのセイヤーズはパズラー+トップバッターに徹して、手堅く出塁しました。自身の考えはありながらもあちこちに種を蒔いていました。そして、次のクロフツと三人目のウィリアムズ氏あたりまではまあまあ良かったのですが、リレー小説の宿命でしょうか。どんどんドツボに嵌っていきます。 リレー小説とはいえ、前半部と後半部では書き方を変えていかなくてはいけません。ところが、後半の三人までもが展開させていくことばかりを考えて、まとめようという意志が希薄でした。 各々が推しの犯人を考えるのはいいのです。整合性が取れなくなってくるのもある程度は仕方がないと思うのです。ただ、そのために誰もが犯人でありうるような状況になってしまい、なんでもありになってきて、ついには誰が犯人でもどうでもいいや的な空気が醸成されてしまった点が非常によろしくなかったと思います。そこを最後の彼につけこまれたのでしょう。 戦犯を発表したいと思います。6人目のデイヴィッドです。能力の問題以前に、この男は試合を投げました。 以下『』はファンタジスタ、デイヴィッド・ヒューム氏作者ノートからの引用です。 『わたしの執筆部分は、どのように書き改められても異存はない』 『二度とこの種類の作品依頼が舞い込まぬようにと、神に祈る気持ちでいる』 ちゃぶ台返しの解決編、おまけにやる気までなし。最後の数行はわりと好きではありますが、ここでドヤ顔されてもなあ。 とりまとめ役のチャンスラー氏は『物語の体裁を調えるため』にプロローグをつけたとしておりましたが、自分には『ヒューム氏が無茶苦茶やらかした尻ぬぐい』としか思えませんでした。 チャンスラー氏に怨みはありませんが、プロローグはいりません。むしろ、第六章の異次元ぶりを際立たせた方が別の意味で面白かったのではないでしょうか。 純粋にミステリとして楽しむにはかなり厳しい作品(3~4点)ですが、メタ的な読み方をすれば興味深い点はあります。採点は5点といたします。 |