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ミステリの祭典

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ルー・サンクション
ジョナサン・ヘムロック教授

作家 トレヴェニアン
出版日1988年06月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 Tetchy
(2009/03/27 23:15登録)
『アイガー・サンクション』の続編。
『アイガー・サンクション』ではスパイ物でありつつ、本格的な山岳小説でもあったが、本作は純粋なスパイ小説に徹している。

図らずもスパイ稼業に復帰せざるを得なくなったジョナサン。しかし読者の予想を裏切って百戦錬磨の活躍を見せるわけではなく、ブランクによる違和感と若さの喪失を悔やむジョナサンと読者は対面する事になる。

しかし、相変わらずトレヴェニアンの描く登場人物は個性的で際立っている。アイルランド娘マギーを筆頭に、完璧な美を誇る売春婦アメージング・グレース(素晴らしい名前だ!)、同じく永遠の若さを理想とする悪役マクシミリアン・ストレンジ、そして一癖も二癖もある美術品泥棒マックテイントなどなど、全て印象的である。

今考えてみると、本作は残酷なシーンと哀しみが表裏一体となっている。
残酷さと哀しみ。
どちらも負の感情だ。
だからこの作品の読後感に爽快感はない。大きな喪失感が残る。元大学教授とトレヴェニアンの略歴にはある。心理学なのか文学の教授だったのかわからないが、一連の作品に通底するペシミズムは彼のこの経歴から来るものなのかもしれない。つまり小説創作を通じて実験を行っている、それはあまりに穿ち過ぎか。

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