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ミステリの祭典

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ファントム謀略ルート

作家 マイケル・バー=ゾウハー
出版日1982年08月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 Tetchy
(2013/12/15 09:36登録)
本書のテーマはアメリカ大統領選挙戦である。アメリカの石油不足と年々高騰する原油価格という負のスパイラルを打破すべく、OPECに軍事的介入を辞さないと主張する新進気鋭の議員とOPECと友好関係にある現副大統領との一騎打ちにOPECの議長がその地位の安泰とOPECの地歩を盤石にすべく、アメリカの石油会社の社長と共に新進の議員の失墜を画策するという政治的紛争を描いた作品だ。
そして本書でもナチスが関わってくる。特に本書ではOPECによる石油生産抑制にて価格高騰に苦しむアメリカを背景にした次期大統領選挙戦で次々と相手方のスキャンダルとお互いの政治的活動を引金した種々の事件を引き合いに足の引っ張り合いを繰り広げる精神の削り合いのような攻防と合わせて、かつての栄光を再びと再起を図るノンフィクションライターのクリント・クレイグが次回作の題材にとナチスの元帥ゲーリングの死と彼が指揮したファントム作戦なる、ドイツの各地に隠匿し、今なおその大半が見つからない略奪された欧州各国の財宝や美術品の行方を探る物語が並行して語られるが、クリントのゲーリングに関する取材の内容はこれだけで1冊のノンフィクションが物に出来るような実に深く、しかも面白い読み物となっているのが凄い。
さらにこのゲーリングの謎が本筋である怒涛の攻勢を見せる次期大統領候補の隠された過去に関わってくるのが実に心憎い。アメリカ大統領選挙とOPECとアメリカの争い、そこにナチスの昏い翳を投げかける。バー=ゾウハーにとって果たしてナチスとはどれほど根深いテーマなのだろうか?

さてカタカナ名詞に二字熟語を重ねた題名はもはやこの頃のバー=ゾウハー作品の代名詞ともなっているが、本書のファントムとは第二次大戦中にナチスのゲーリング元帥が指揮した各国の財宝・美術品の隠匿作戦が<ファントム作戦>と呼ばれていたことに由来する。主人公のクリントが未だにその大半がその在処が不明となっているナチス時代の財宝・美術品の謎を探るノンフィクションを著すためにその痕跡を辿る、まさに邦題は作品のテーマを実に的確に表している。これは訳者の仕事を素直に褒めたい。

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