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ミステリの祭典

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誰が為に爆弾は鳴る

作家 トニー・ケンリック
出版日1988年01月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2024/02/03 04:07登録)
(ネタバレなし)
 ニューヨークを騒がす、連続予告爆破事件。爆発によって生命を失う被害者が生じたのち、巧妙な手口の謎の爆破魔「アルカ・セルツァー」は、NY市に100万ドルを要求してきた。一方、さる事情から数年前に警察を追われた元敏腕刑事で、今は流行らない税金コンサルタントとして糊口をしのぐ中年男ジーン・チャーターズは、警察官時代の捜査能力を見込んだ謎の男「フリードマン」から脅迫され、命と引き換えに爆弾魔を見つけ、100万ドルを横取りするように命じられた。チャーターズは、同性の恋人を爆殺された未亡人ジャニス・スタンリーや旧知の友人たちの協力を得ながら爆弾魔を捜索し、同時に脅迫者フリードマンへの反撃の方策を練るが。

 1983年のアメリカ作品。
 ケンリックの第10番目の(?)長編作品。

 70~80年代の我が国での大人気はいずこへ? 当サイトでも全然読まれなくなったケンリックだが、まあ時代の趨勢で仕方がないか。たぶん『リリアンと悪党ども』を『SPY×FAMILY』のパクリだと思ってる21世紀現在形の読者も多いだろうし?(笑)

 で、ケンリック作品もこの時期になると、初期のギャグコメディ味はかなり鳴りを潜め、お話としてはそれなりに面白いんだけど、往年のあの楽しさを想起すると何か物足りない。栄養と歯応えはあるんだろうけれど、調味料が効いてなくて旨味を引き出せていない肉料理を味わってるような気分……というのが中盤までの感触。

 いや正直、そんな感じのややアンダーな気分で読み進めていたら、後半は見事な「ハードボイルド」ミステリになってゆくので(スピリット的な意味で)、軽く驚き、これはこれで……! と嬉しくなった。 
 ミステリとしてのシークレット要素はある程度早めに、カードの裏面がおおむね表を向くが、そこからの主人公チャーターズの足捌きがなかなか骨っぽい。ケンリック、こういう方向で一皮むけてたんだね。今まで後期作品をやや敬遠していたのを、少し反省した。
 
 20~30代に、ほぼリアルタイムで読んでいたら、きっともっと心にうっすら傷を残していたであろう。
 まとめ方はやや無責任というかゆるい気もしないでもないが、その辺はケンリックの先行作アレやアレを読んでいるこっちからすれば、まだマトモなもんよ(笑)。
 評点は、8点に近いこの数字ということで。
 
 ちなみに読後にTwitter(現・X)で本書の他人様たちの感想を探ると総じて意外に? 評価が高い感触。まあ裏ベスト的に好かれているケンリック作品、というのはなんとなくわかる。

 そーいえば、オレの現状のマイベストケンリック作品ってなんだろ? あらためて、結構迷うなあ。少なくともたぶん『スカイジャック』が一位になることはちょっと考えにくいんだけど。

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