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ミステリの祭典

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密室
マルティン・ベック

作家 マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールー
出版日1976年01月
平均点8.00点
書評数2人

No.2 9点 クリスティ再読
(2021/05/01 15:43登録)
極めて底意地の悪い小説である。こんなエピソードに出くわすとは思ってもいなかった...だから、マルティン・ベックの代表作ではありえないが、最高傑作には評者は認定したい。
考えてみればこのシリーズ、警察小説とは言いながら、ベックをはじめ登場する刑事たちがヒーロー像からは逸脱気味で、「警官をヒーローとする小説」とするとどうも収まりが悪いシリーズなんだが、本作は悪ふざけ的なアイロニーが充溢していて、せっかく復帰のベックもとんだ役回りになる。タイトルからして「密室」で、ちゃんと「密室」で殺害された被害者がいて、それなりの密室トリックがあり、ベックがそのトリックを暴くのだが....いやそれがまったく何の実も結ばない。別に密室トリックはフザけたようなトリックではなくて、「マルティン・ベックらしいリアルで手堅い」もので複合技として一応オリジナリティを認めてもいいんじゃないかと思う。でもある意味「つまらないトリック」。だからパズラーマニアが喜ぶか、というとそういうものでもないだろう。
「密室トリック」が一応ちゃんとしたものではあるからこそ、「密室」を比喩として使うこの作品の狙いが、際立つともいえるだろう。だから、「密室を出たら、そこもまた密室だった」というような、言い換えると福祉社会を築き上げて公正で民主的な国家を作った...と一応の成功モデルとして捉えられがちなスエーデン社会が、まさにその成功によって疎外される人々を生み、軽薄で躁病的な「ブルトーザー」オルソン検事やら、権力志向の上司マルム警視長やらが、権力の座を握りしめる。どこかしら今のニッポンを思わせるような「成功ゆえの失敗」を絵に書いたような皮肉な状況が、この作品のテーマそのものだともいえる。
この「密室」の合わせ鏡の中に、ベックは囚われてしまう。とんだお笑い種である。
前作「唾棄すべき男」がこの矛盾した社会に押しつぶされた男の、キマジメな悲劇の話だったとすれば、今回はそれを顔をしかめながら笑い飛ばすような話である。
だからこそ、すばらしい。

No.1 7点 mini
(2009/07/31 09:50登録)
発売中の早川ミステリマガジン9月号の特集は、”密室がいっぱい!”
便乗企画として本格"以外"の密室ものを

前作で負傷し入院したマルティン・ベックは、退院後の病みあがりなので1人だけ一見すると地味な自殺事件の担当に割り振られたが、それは密室殺人事件だった
一方他の主要メンバーはブルドーザー・オルソン検事の陣頭指揮の元、派手に銀行強盗を追うのだったが・・

今回はオルソン検事のワンマンショーと化してる(笑)
はっきり言ってこれギャグだろ(さらに笑)
ストレートな警察小説だった前期の「笑う警官」とはタイプが違い、社会制度の矛盾とかの要素を入れるようになった後期の作
題名の”密室”というのも、そのまま密室殺人事件の意味と、社会の閉塞感の両方に掛けている
密室トリックに過大な期待をしちゃ駄目よ(最後に笑)

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