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ミステリの祭典

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三人のイカれる男

作家 トニー・ケンリック
出版日1987年06月
平均点6.50点
書評数2人

No.2 6点 人並由真
(2020/01/02 18:26登録)
(ネタバレなし)
 健忘症に悩まされる35歳のジェームズ・ディブリー。存在しないはずの母親が見える40歳前後のチャーリー・スワボタ。本来の温和な青年とタフガイ、妖艶な美女と、三つの人格を備えた30代初頭の多重人格者ウォルター・バード。彼ら3人はNYの精神医療施設で知り合い、友人づきあいしていた。だがある日、3人が共用するオンボロの中古車が、整備不順な市道の穴に落ちて大破。怒った3人は、NY市を相手にした損害額150ドル(たった)相当の現金奪取作戦を考案した。この計画に反対しながらも、次第に巻き込まれていくディブリーの恋人キャロル・マース。だが3人の考えた作戦をふと耳にした別の悪人一派が、そのアイデアをさらに拡大。大規模な犯罪計画を準備し始める。

 1974年のアメリカ作品。ケンリックの長編としては『殺人はリビエラで』『スカイジャック』に続く第三作目だが、先にminiさんがレビューに書かれた事情で翻訳刊行は後回しになった(ケンリックの邦訳としてはこれが10冊目にあたる。つまり7作分、後発の原書が先に訳された訳で)。

 金が無い主人公トリオが犯罪計画の準備のため、強引にことを進める中盤からがおなじみケンリック流ギャグコメディの本領発揮。
 新車を調達する際の、どっか赤塚マンガを思わせるドタバタ劇や、犯罪計画に必要なあるものを奪取するため、囮役のキャロルにストリップを無理矢理させて衆人の注意を引くムフフな描写など、マルクス映画の出来のよい作品? という感じで笑わせる。

 ただし本作の眼目のハズの主人公3人のイカれた精神設定は今ひとつストーリーにイカされず(ウォルターの多重人格ネタはそこそこ重宝されたが)、実際のところ主人公トリオの向こうで、より真剣に悪事を企てる別の悪党一味の方が本当のウラ主役という感じで、後半の物語の機軸になっていく。
 たぶん作者ケンリック、書いていくうちにそっちの連中の方に感情移入しちゃったんだろうね(ラストのひねりや山場も、ウラ主役の悪党一味の方の比重が大きい)。
 別々の主役チームの物語を並列して語り、最後に双方を交錯させる手際はまあ悪くないが、作者の当初の構想を外れた? 計算違いの感覚も覗える完成度。
 それでも事件総体の決着を紙幅の限りギリギリまで引っ張る小説的作法など、この辺の初期編からすでに作家としての手慣れた印象も抱かせる。
(反面、最後になって、まったく忘れられちゃった脇役などもいるような……。)

 全体的にはフツー以上に充分オモシロかったし、これまでのケンリックの作品なら印象的な名場面がふたつみっつ心に残ればオッケーという感覚なので、本作も十分にそういったスタンダードはクリアしている。
 ただし本作のこの趣向、この文芸設定なら、もっと伸びしろはあったよなあ……的な不満も覚えないでもないので、評点はちょっときびしめにこのくらいで。

No.1 7点 mini
(2008/10/21 11:26登録)
ケンリックはだいたい原著の順番に翻訳されたと思われているが、一つだけ例外がある
それがこの「三人のイカれる男」で、当時は内容に問題があると版元の角川が考慮して初期作なのに翻訳順がずっと後回しになった
今読むと別に問題は無かったと思うし、むしろ911テロ事件があった頃に訳されていたらその方が問題な気もするけどな
「三人のイカれる男」は書かれた順番としては「スカイジャック」と「リリアンと悪党ども」の間に位置し、言わば作者の最も脂ののっていた時期の作だ
キャラ設定がそれほど物語に活かされてないのが弱点だが、話の展開自体は「スカイジャック」よりずっと面白く、構成も見事に決まっている
もし順番通りに訳されていれば、「リリアン」は未読だがきっと前後2作に匹敵する評価をされていたと思うんだけどな、タイミングを逸したのが残念
ケンリックという作家があまり好きじゃないので辛口に採点しがちになったが、ケンリック作品の中で不当に無視されてるのを考慮して7点とする

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