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ミステリの祭典

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恋霊館事件
雪御所圭子・有希真一シリーズ

作家 谺健二
出版日2001年04月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2020/04/16 02:41登録)
(ネタバレなし)
 作者の第三冊目の著作で、全六編の連作を所収した、書き下ろしの中短編集。

 阪神淡路大震災の被災を主題にした処女作『未明の悪夢』の主人公コンビ、占い師の雪御所圭子と私立探偵・有希真一を主人公にしたシリーズの第二弾でもあり、前作は長編だったが今回は連作中短編集の仕様で語られる。

 震災当日の1995年1月17日から5年後の2000年までに、被災地で起きた数々の、時には怪怪奇現象とさえ思われる不可思議な事件(密室殺人から、夜間の幽霊の出没、路上ののっぺらぼうや、電車内の異形の怪物の出現、複数の目撃者の眼前での不可解な殺人……そのほか)が続々と綴られる。なお表題作『恋霊(こりょう)館事件』では『神の灯』ライクの館の消失が大きな謎のひとつになっている(同編のパズラー的な趣向は、そればかりではないが)。

 全体的に「幻影城」新人時代の泡坂・連城などのトリッキィさを想起させる、中短編謎解きミステリの興趣だが(それは各編がパワフルな反面、どこかやや荒っぽい側面も含めて)、作者が本シリーズのなかでミステリの面白さと同時にしっかり伝えたい「震災後の人々の人間模様」も入念に叙述される。

 特に、連作を読み進むなかで大半の読者が実感していくはずの、主人公コンビ・圭子と有希の立ち位置の変遷は、あえてシリーズの二冊目を長編でなく書き下ろしの連作短編集で出した作者の思惑に沿ったものだろう。いくつもの事件が積み重なっていく1995年から2000年の歳月の事件簿のなかで、この二人の内面や社会的な足場がどのように移ろっていくのかは、確実に本書が擁する大きなテーマだ。

 現実の被災の悲劇を主題にしつつ、そこに連作ミステリとしての形質をくみあわせて、メッセージ性と同時に謎解きパズラーの魅力を十全に感じさせる一冊。一部のエピソードでは登場人物の少なさや伏線の丁寧さから先読みできてしまうものもなくはないが、得点的には十分に水準以上の秀作が大半だろう(ちなみに第一話の時点でちょっと思うところがあるかもしれないが、そのまま黙って第二話以降に読み進んでほしい)。

 本シリーズは第三冊以降もさらなる展開を見せるらしく、一部の評価も高いようなので、そのうち読むのを楽しみにしている。 

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