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ミステリの祭典

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キルケーの毒草
鳥部林太郎&大島耿之介

作家 相原大輔
出版日2005年01月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2019/03/05 18:58登録)
(ネタバレなし)
 時は大正。帝都新聞の記者で新進の怪奇小説作家でもある青年・木村敬介は、懇意にしている叔父夫婦と別れたその夜、ある人物と出くわして、妖しい怪異譚を聞かされる。だがその後、敬介は人々の前から姿を消した。やがて敬介の知人の若き小説家・鳥部林太郎は、消息不明になった同人の手がかりを求めて捜索を開始。鳥部は、敬介の知己である奇矯な言動で有名な華族・桐嶋秀典男爵の屋敷を訪れるが、そこで彼は旧知の遊民・大島耿之介に再会した。しかし桐嶋家の周辺ではかねてより家人の突然の失踪など怪異な事件が頻出しており、今また鳥部と大島の前で新たな惨劇が……。
 
 『首切り坂』に続く、鳥部林太郎と大島耿之介コンビシリーズの第二弾。……とはいってもこの作品が書かれてからすでに、特にその後の動きがないまま14年も経ってるんだから、おそらくシリーズはこのままここで終るであろう。
 本作はカッパ・ノベルスの書下ろし、二段組みで500ページ強。たぶん原稿用紙で1000枚前後のボリュームで、錯綜する事件のボリューム感も絶大。紙幅的に軽め、内容も言ってしまえばワンアイデアストーリーだった前作とは大きく様変わりしている。ここまで極端なシリーズ展開も珍しい……かな(何か前例がありそうでもあるが)。

 新登場のキーパーソン・木村敬介が接する怪異譚の叙述をプロローグに、鳥部が登場してからは舞台が桐嶋家にほぼ固定。『ワイルダー一家』や『屍の記録』を思わせる世代を超えた家人消失の謎などもからんで、じわじわと物語を盛り上げていく。
 とはいえさすがに分量的に長すぎて疲れるのは必至だが(汗)、前作同様になかなか文章が達者なのでその辺で読ませる強みはある。中盤で大きな事件が起きてからは加速度がいっきに高まり、終盤の二転三転する謎解きはぐいぐい引きこまれた。
 最後に行き着く真犯人の意外性とその動機(というか背後事情)はかなり強烈。その分、真相はかなりぶっ飛びすぎていて、今回もとどのつまりはまたアイデア先行? ……と思いきや、たしかに作品の前半から件の部分について作者は布石を張っている。疲労感すら覚えた長さだけど、この解決に至るまでのいろんな意味での段取りとして、これだけの紙幅を書き手が必要としたのはまあわかった。
 終盤、メインの事件の真相が判明したのちの意外なツイストは部分的には先読みできたが、描写の比重のかけ方に作者なりの意気込みが覗けて印象深い。
 全体のバランス感でどうも違和感を拭えない面もあるので秀作・傑作だとは言いがたいが、豊富なネタをつめこんだ力作なのはマチガイないだろう。特に19章以降の、いかにも新本格的な謎解きはニヤリとさせられた。

 改めてこの作者の方、今はどうしているのかね。前作と本作の差別化具合を考えるなら、三作目にどういうものが来ていたか、なかなか興味深かったけれど。00年代の新本格シーンにおいては、探偵役の主人公コンビのキャラクターの薄さは弱い部分があったかもしれない。

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