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ミステリの祭典

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迷宮のチェスゲーム
デイヴィッド・オードリー

作家 アントニイ・プライス
出版日1990年05月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2026/07/25 17:21登録)
(ネタバレなし)
 第二次世界大戦終戦直後の1945年9月。英空軍大尉ジョン(ジョニー)・アテア・スティアフォース大尉が操縦する輸送機ダコタがイングランド東部のリンカンシャー周辺で行方を断った。同乗していた4人の乗員は機体の失踪寸前にパラシュートで脱出。やがて1970年の現在、朽ちた機体が干ばつした人造湖の湖底から見つかるが、なぜかその機体の周辺でソ連側の調査勢の姿が確認される。ダコタには一体、何が積まれ、その何が四半世紀も経った現在、ソ連側を動かすのか。英国国防省に所属するケンブリッジ出身の歴史学博士デイヴィッド・オードリーは、上司フレドリック卿の指示でこの案件の調査に乗り出すが。

 1970年の英国作品。同年度のCWAシルバー・ダガー賞受賞作品。
 デイヴィッド・オードリーをメインキャラクター、フレドリック卿をその上司とする英国国防省、およびその関係者たちの活動を描く群像劇サーガ(ル・カレのスマイリーものや、クレイグ・トーマスのケネス・オーブリーものとかと一緒だね)の第一弾。
 ネットで検索するとシリーズ作品は広義で20冊近く書かれ、日本でも5作以上が紹介されているはずだが、本サイトでも今まで登録がなく、2020年代の本邦ではほとんど忘れられた作家になっている。
 じゃあ読みましょ、ということでこのシリーズ初編から手に取ってみた。

 その一方で個人的に少し忙しい&興味がちょっとほかのことに移って、いまややミステリが縁遠いなか、なんでこんな渋い英国スリラーなんか読み始めちゃったのかな、オレは……などともはじめは一瞬だけ思ったが……いや、これがなかなか面白い。

 特に30台後半(もう少し上かも)のオードリーが、キーパーソンである故人スティアフォースの遺児である20代半ばの中学教師フェイスと出会い、事件に巻き込まれながら年の差カップルになっていくあたりの良い意味での通俗性は、なんかマイケル・シェーンとフィリス、あるいはナイジェル・ストレンジウェイズとジョージア辺りのなれそめを思わせる感じでとても良い。会話も予想外に多く、人物配置も明快なので全体のリーダビリティはかなり高い。
 ダコタが一体何を積んでいたのか? はお話の大きな興味で、さらにそこから始まるムニャムニャとかも当然ながらここでは言わないが、場面場面の細部を適度に書き込む話術のうまさがシンプルな宝探し話に程よい起伏感を感じさせ、全体的にエンターテイメントとしての出来は良い、と思う。20世紀現代史の知識はあった方がいい作品だが、原書&翻訳にはその辺のアカデミックな事項にも随時親切な注釈が設けられ、そういう意味でもサービス満点。
 Aクラスの下というか、一級作品というには、よくも悪くもやや敷居が低い感じだが、そこら辺もまあ悪い味わいではない。

 ちなみに作中でオードリーと親しい年輩の歴史学者が『指輪物語』読んだか? 面白いぞ! と勧めてきて、オードリー本人よりもヒロインのフェイスの方が先に夢中になる場面があり、興味深い。『指輪』は54~55年の作品だが、欧米でも60年代の末から再評価? の動きがあり、その流れが1972年からの日本での邦訳にも繋がっていった……という観測でいいのかしらね。

 ほかの邦訳作品もそのうちまた読んでみましょう。次はやっぱり、本作の数年後に今度は本命ゴールド・ダガー賞を取った『隠された栄光』あたりかな。そーいやこれも少年時代に買ったまま、家のどっかで眠っているような……(汗)。

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