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ミステリの祭典

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「茶の湯」の密室
神田紅梅亭寄席物帳シリーズ

作家 愛川晶
出版日2016年11月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 クリスティ再読
(2025/12/09 19:10登録)
「茶の湯」の密室、というタイトルをみて急遽読むことにした。表題作と「横浜の雪」と中編2作を収録。

このシリーズは落語界を舞台に「日常の謎」系のちょっとした謎を解きつつ、ネタの落語と人間模様を描いていくタイプの作品のようだ。だから「茶の湯」だってネタ元は古典落語の「茶の湯」ということ。「寝床」の義太夫とか、「蕎麦の殿様」のそば打ちとか、偉い人の趣味に付き合わされる周囲の迷惑の話w
でこの落語「茶の湯」のデテールのヘンテコなあたりをツッコむという、野暮と言えば野暮な趣向で、真打ちになったばかりの落語家の山桜亭馬伝、その妻亮子、師匠でリハビリ中の馬春のトリオが主人公。この馬伝が芸にマジメ(すぎ)で「茶の湯」のデテールのおかしいところを指摘されて悩むとか、「横浜の雪」では三題噺の会で出たお題で作った新作を師匠にダメ出しされてで悩む、というあたりの芸譚っぽいあたりが読ませどころ。それに絡めてややミステリ的な趣向(消えた猫、冤罪の猫殺しで落語会を追われた弟弟子の復権問題)がある。
まあ、落語というのも噺によっては伏線いろいろ引きまくりのものもあるわけで、ミステリ的といえばそうかもね。そういう着眼点の「軽い謎」と人間模様、落語界の裏話を仕立てたエンタメ。

だからちよっとした仕込みがあって、あれ?なるほど!とかそういうタイプの「謎」感覚。悪くはないけど、小ぶりかな。馬伝はマジメだから、「茶の湯」の題材の茶道についての知識を得るため、妻亮子が誘われた茶事がどんな感じだったのかを知りたがる、というエピソードがある。マンションの一室に茶室を作って、というなかなかリアルな設定の「夕さりの茶事」。「密室」は大した話じゃないが、ちょっとした「建築の謎」がある。茶事の内容描写は適切だけど、茶人の監修が入ったそうだ。

「横浜の雪」は、半七でもあった尊王攘夷の浪士が横浜の異人に嫌がらせをする事件を背景に組み立てたオリジナルの噺がネタ。実際に柳家小せん師匠に実演までしてもらったそうだ。これは馬伝が三題噺のお題からヒネリ出した噺を、代打の師匠馬春が施した「変更点」が一番の読みどころかな。

タイトルに期待し過ぎたが、まあ普通。悪くはない。けどネタでピンとこないものもある。仕方ないか。
(馬伝のマジメっぷりに、桂枝雀みたいな危うさも感じるなあ...)

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