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ミステリの祭典

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夜の終り
「テレーズ・デスケールー」の続編

作家 フランソワ・モーリアック
出版日不明
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 クリスティ再読
(2025/11/23 19:40登録)
先日「メグレ最後の事件」を書評した際に、どうにも本書を連想したのでやることにした。20世紀フランス文学最凶の萌えキャラ、テレーズ・デスケールーのその後を扱った小説である。

「メグレ最後の事件」では家庭の中で孤立するナタリーがメグレの捜査を待つかのように、そしてメグレの捜査が「救い」であるかのような姿が描かれたわけである。意外に女性主人公が少ないシムノンだけど、「ベティ」あたりに近い作品なんだよね。でこのような「運命を待ち受ける女性」の原型みたいに評者が感じるのが本作。
前作「テレーズ・デスケールー」から15年後。夫を毒殺しようとしたテレーズは、家の体面を守るために家族全てが口裏を合わせて、テレーズにかかった夫の殺人未遂の容疑の不起訴を勝ち取る。テレーズはカトリックの教義から離婚はされずに、軟禁生活を送ることになる。ほとぼりが冷めた頃、テレーズは夫から解放されてパリで一人生活を送ることになる...が前作まで。本書では初老に入ったテレーズは心臓の持病を抱えつつ、パリで女中のアンナだけを頼りに孤独に生活していた。そこに娘のマリが突然訪れる。家族はテレーズの犯罪をキツく口止めしていたために、マリはテレーズの罪を不倫と誤解していたのだ。マリもやはり恋人ジョルジュとの恋に悩み、ジョルジュを追ってパリに出奔してきてテレーズを頼ったのだ。テレーズの事件はやはり二人の結婚の障害にもなっており、マリは真相を知りたい、不幸な母を救いたいという思いからテレーズを訪れたのだ...しかし、ジョルジュはテレーズの「すべての調子を狂わせる天分」からテレーズに惚れ込みマリとの婚約が危機に陥る...母を恨むマリとの決着は?

という愛憎が渦巻くドロドロの小説。それでもやはりテレーズの独特の魔女的キャラクターが独自。体の弱ったテレーズは妄想にも囚われる一方、鋭い洞察を示すこともあり、命が終わりかけている「罪の女性」の救いは?というカトリック小説としての狙いがある。

シムノンでも「べべ・ドンジュの真相」がシムノン流解釈の「テレーズ・デスケールー」だったりするわけだ。実は純文学カトリック作家のモーリアックの方が異教っぽい心理主義ドロドロで、シムノンの方に宗教的清澄さが漂っているとか、なかなか一筋縄ではいかない。「メグレ最後の事件」の末尾は

彼女は勧められもしないのに、判事の前に坐った。とてもくつろいでいるようにみえた。

とあたかも神の前での裁きに臨むかのような描写なんだ。「夜の終り」では

「何もしないの。ただ時間が鳴るのを聞いているんですわ。命が終るのを待っているのですよ…(中略)そうですよ、ジョルジュ、命の終り、夜の終りをね」

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