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ミステリの祭典

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ブラック・ドッグ

作家 葉真中顕
出版日2018年06月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 E-BANKER
(2025/11/23 12:53登録)
今、個人的に”最もアツい”ミステリ作家である「葉真中顕」。
本作はシリーズ外長編、かつ、なんなんだ! この内容は・・・。かなりの問題作ではないか?
単行本は2016年の発表。

~目的のためには殺人も辞さない過激な動物愛護団体、『DOG』。遺棄動物の譲渡会が行われる会場に集まった隆平、栞、結愛と拓人たちは、『DOG』によって会場に閉じ込められ、謎の黒い獣に襲われる。獣から逃げるため、逃走を開始する人間たち。「ヒト」と「ケモノ」を隔てるのは何か~

本作の内容をひとつの単語で表すなら、ずばり「凄惨」ーである。
序盤からすでに物語は不穏な空気をまとっている。アラスカでとある食肉加工会社のオーナー一族が惨殺される事件が描かれる序章。その中身はヴェールに包まれており、真相は次章以降に明らかとなる。
舞台は変わって日本。東京の臨海地区につくられた自然公園、そしてその中の巨大ホールが、この「凄惨」な物語のメイン舞台となる。

物語は複数の視点人物から語られる。それぞれが「ある生き物」に襲われ、凄惨な殺戮が繰り返される現場をその人物の目線、思考を通して語られる。
どんなに鍛えられた人間でもその圧倒的な能力で凌駕してしまう「ある生き物」。十数体登場する「ある生き物」の前に、成すすべなく次々と殺害されていく視点人物たち・・・
さっきまで、その人物たちの過去や現在、未来の希望などが語られていたはずなのに・・・。その死は一瞬にして訪れてしまう。
あーあ。何という刹那。こういうストーリーが次々と展開されていく。
それでも、私は本作を読み進む手を止められない。なんていうか、圧倒的な物語である。紹介文で触れている「DOG」なる団体。そして、その主宰である博士と象徴的な「ある存在」。
彼らの主張は理解できる。理解できるのだが、それは酷すぎるだろ!という読者の願いも空しく殺戮劇は続けられるのだ。

本作を分類するなら、「アニマル・パニック」なんだろうか? 過去に読んだ西村寿行のネズミやバッタの大発生による阿鼻叫喚を描いた作品などが想起されるんだけど、本作は単なるパニックものではない。
そこに作者の思想が見え隠れしている。それをどう受け取るのかは読者次第。単なるエンタメ小説として理解することも可能だろう。
私は?って、うーmm。
けっこうキツい読書にはなった。「そうならないでくれ!」と願いながら、ページをめくる手が止まらない感覚。
そこは特殊設定ミステリなどでは決して味わえない、なんというか、「生々しい」感覚さえ味あわせてくれた。

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