| 探偵はパリへ還る 私立探偵ネストール・ビュルマ |
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| 作家 | レオ・マレ |
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| 出版日 | 2025年10月 |
| 平均点 | 7.00点 |
| 書評数 | 1人 |
| No.1 | 7点 | 人並由真 | |
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(2025/12/17 15:08登録) (ネタバレなし) 第二次大戦下。「わたし」こと、パリの名うての私立探偵で「フィアット・リュックス探偵事務所」の所長ネストール(「ダイナマイト」)ビュルマは、出征中にドイツ軍の捕虜となり、ブレーメンとハンブルグの中間辺りにある捕虜収容所にいた。そこでビュルマが出会った記憶喪失らしい捕虜の男「ラ・グロビュル」は、本来ならビュルマとともに傷痍軍人として解放されるところ、その直前に謎の言葉を遺して死亡した。その謎を抱えながら元捕虜としてまずフランスのリオンに戻ったビュルマだが、そこで思いがけない顔を見かける。だがその直後、彼が遭遇したのは突然の殺人事件だった。 1943年(まだ戦時中)のフランス作品。作者レオ・マレの第四長編で、マレの看板キャラクターであるビュルマ初登場の長編。 この後ず~っとしばらくして1954年の『ルーヴルに陽は昇る』(ポケミスに邦訳あり)からシリーズ・イン・シリーズとして、ビュルマの事件簿の枠内で、日本でもおなじみの「新編パリの秘密」路線が始まる。 実を言うと今年の夏にふと思いつき、ポケミスの古書で『ルーヴル』を購入。で、少し置いておいてしばらくして読もうかと思ったタイミングで、この本当のビュルマシリーズ第一作『探偵はパリへ還る』の発掘新訳が出ると言う情報が聞こえてきた。 何たる偶然! 何たるラッキー!! ということで、当然のごとく『ルーヴル』のページを開くのは据え置き。先にこっちを読もうと新刊の刊行を待つ。 まあ出てからも本当にすぐは読まず、手に取るまで少し間が空いたのはいつものことだが(汗)。いやむしろこの短期間スパンでの新刊読書なら優等生か。 つーわけで長いマクラの後の感想だけど、いや、なかなかイケるんでないの。 話はテンポよく転がっていくし、終盤に名探偵一同集めてさてといい、のフーダニット形式にはなっているし、細かい伏線も張られまくっているし。 良い意味で謎解きの興味を織り込んだ軽めのハードボイルド……というより、フランス版の準クラシック私立探偵小説。まあ犯人は登場人物の配置からムニャムニャ……な面はあるかもね。ただまあ素直に読むなら、結構意外ではありましょう。 違和感があったのは、戦時下の雰囲気は確かにあちこちにあるものの、ドイツ進軍中、周辺が占領下、という緊張感がいまひとつ感じられないこと。捕虜収容所のドイツ軍人たちもおおむね紳士的? である。 まあナチスの悪虐、ホロコーストが欧米の他国に知られたのは戦後になってからと、どっかで聞いたような気もするし、当時のリアルタイムでの近隣国の意識なんてこんなものかな、という想いもあったりする(真面目にナチス関連の現実や現代史を探求している人に対しては、不遜なことはとても言えないのだが)。 さらにもうひとつゲスの勘繰りをすれば当時のフランスはまたドイツ側の占領下に置かれるのではという警戒もあったかもしれんし、万が一の場合の忖度を考えてあまりドイツを悪く書けなかったのかもしれんね? フィリップ・カーのグンターシリーズの世界観みたいなものを、リアルタイムの最前線の視点で読ませてもらえるというのは、まあ、な。 あと本作のミステリとしての話題に戻ると、冒頭からの名前の謎の決着は、いささか拍子抜けと言うかそれでいいの? という面もあったが、まあなんかその程度に緩いあたりは、フランスの謎解き作品ぽくてまあ良いかと? さらにそのキーワードとなる名前の話題は、シリーズものとしての今後に繋がっていく部分もあるみたいだし? そこはおいおい本シリーズの翻訳があるものを読んでみることにしよう。 個人的に、翻訳ものの私立探偵小説成分がちょっと最近不足してたので、割とその辺の飢餓を満たしてくれる心地よい作品でもあったりする。 【2025年12月20日追記】 巻末の解説はおなじみシンポ教授が書いていて、トータル的にはさすが、と思う内容なんだけど、ひとつだけ。 ビュルマと本シリーズの女秘書の関係性というかシリーズを通しての描写の推移を評価。 で、まあそれはいいんだけど、比較の対象として、ガードナーのメイスンとデラの関係を<まったく十年一日(大意)>の主旨でdisっていて、こーゆーのってあんまり概論&結論先&個々の作品無視の都合論で言わんほうがいいんじゃねーの? と思ったりする。シンポ教授『弱った蚊』とか読んでない、もしくはラスト忘れてるでしょ? 大雑把なことを聞いた風に言うと、あとが怖いよ。 まあシンポ教授が本気でメイスンシリーズ全部しっかり精読していて内容もほぼ記憶していて、その責任の上でこの文章書いたのだとしたら、わたしゃ心からお詫びしますが(汗)。 |
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