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ミステリの祭典

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三人書房

作家 柳川一
出版日2023年07月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 猫サーカス
(2025/09/24 17:21登録)
タイトルの三人書房とは、江戸川乱歩が今日第三人で営んだ古本屋の名前であり、本作は乱歩を中心にそこに集う実在する物語なのだ。「三人書房」は古本屋に居候する乱歩の友人、井上勝喜が語り手となる。井上は、不倫相手だった島村抱月の死の後を追って自らも自死を遂げた女優、松井須磨子のものと思われる第四の遺書の謎と向き合う。手紙に記された謎めいた記述を暗号と見て、その解明に勤しみながら死を目前にした須磨子の心理に迫っていく。不倫と自殺に沸き立つ時代の風潮を背景に一人の先進的な女性の思いを描き出す滋味深い一編で、あるいは乱歩の生涯には、こんな事件が起こっていたのではないかと錯覚してしまう。以降の短編も同様に、乱歩と交流を持った人物の視点から奇妙な事件と、江戸川乱歩の姿が活写される。大半の物語は、史実と絡めた部分があり、謎解きとファンタジーとの配合具合が見事。

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