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ミステリの祭典

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西成海道ホテル

作家 黒岩重吾
出版日1977年04月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 斎藤警部
(2025/09/16 01:24登録)
釜ヶ崎の隣、西成海道町の格安ボロアパート 「春日荘」 の住人、関係者、管理人、大家、周囲の人々が繰り広げる、どえらいブルージーな人生劇場。 彼らの多くにとっちゃ、こんなん人生ちゃうよ、かも知らんけど。

同著者による、よく似たタイトルの 『飛田ホテル』 は紛うこと無き狭義ミステリの短篇集でしたが、こちらはちょっと違います。
『飛田』 の兄弟篇を期待して第一話を読んでいたら、その結末、足元がスゥッと消えたような意外すぎる着地点。 そこには確かな反転があるのだが、まるでミステリではないような。。 おっと、連関を見せる第二話も同様の ・・ これはミステリの領域にぴったりと身を寄せた ‘日常のサスペンス’ の理想形ではあるまいか。 ウールリッチ 「聖アンセルム923号室」 に通ずるような、ミステリではないがミステリ叢書/ミステリ系列に入っていることが相応しい連作短篇集だと思うのです。 うん、確かに強靭なサスペンスに押され煽られ、あれよあれよと最後の話まで読み尽くしてしまいました。 かなりイヤな感じの男女関係人間関係。 酒に賭博。 希望と絶望と諦観。 怠惰と熱中。 安宿に食堂にスタンドバー。 ぽん引きに街娼。 人情非人情。 射精と小便。 自慰と性交。 ゲスな野郎にあほ野郎。 出ていく奴、留まる奴、消える奴。 喧嘩に騙し合い。 コツコツやったり悪い近道を狙ったり。 時に犯罪。 街では暴動すら起こります。

第一話 虹の故郷/第二話 残夢の花床/第三話 闇に残った茜雲/第四話 果てしない階段/第五話 木枯らしの嗤い

こうして見ると、各話の表題がどれもこれも刺さるんだなあ。 辛い一方だったり、絞り出した明るさがあったり、ねじれた皮肉だったり。 話の内容を無表情に突き放したような表題とも見えるなあ。
第×話のチョイ役氏が、第×話では主役で出てきたり、ある登場人物の意外な諸々が、別な話の中で明かされたり、人間模様のうねりが、連作短篇ならではの熱さをもって切り売りされます。 嗚呼、群像劇。

“あの一杯飲み屋の連中は、何時(いつ)も、こんなことを喋っていたのか”

かつては賑わう庶民の街だったのが、すっかり枯れて陰湿な土地になり果てた ・・・ 以前釜ヶ崎に住んでいた黒岩重吾氏が、良き過去への郷愁を抱きつつ、執筆当時の近隣地区に取材を重ねてものした作品とのことです。

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