(2025/11/04 01:43登録)
(ネタバレなしです) ジューン・ハー(1989年生まれ)は韓国出身でカナダ在住の女性作家です。2020年に作家デビューし、小説第3作となる2022年発表の本書は初期代表作とされています。作中舞台は1758年の李朝朝鮮で、歴史上の実在人物も登場しています。私は朝鮮を舞台にした小説も映像作品も鑑賞経験がほとんどないので創元推理文庫版の冒頭に用語集があったのは大変助かりました。主人公は18歳の内医女のベクヒョンです。医女は医者ではなく医者の補助役的な職業で、宮中で働く内医女は女官の中では最高位と第13章で語られています。ところが用語集では当時の社会階級制度の中で医女は最下層の身分(賤民)であることも説明されており、社会的弱者として苦しむ場面が随所で描かれていて作品の雰囲気は重苦しく、文庫版のカラフルな表紙カバーとは裏腹に灰色の世界の印象を受けました。宮中で発生した四重殺人事件の謎解きを描いており、日本語タイトルに「推理譚」が使われているので(英語原題は「The Red Palace」)本格派推理小説の系統かと読む前は思っていましたが犯人当て要素はあるもののスリラー小説要素の方が強いように思われます。ベクヒョンは一緒に捜査する補盗庁(警察に相当する組織)の従事官から有能と評価されてはいますが耐え忍ぶ女性としての描写の方が目立っていて、派手で華麗な活躍を期待する読者にはお勧めできません。
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