鳴かずのカッコウ |
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作家 | 手嶋龍一 |
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出版日 | 2021年02月 |
平均点 | 6.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 6点 | クリスティ再読 | |
(2025/08/22 20:56登録) 公安調査庁というと「日本のCIA」とかね、そういう立場にある官庁のわけだけども.. 俺たちは、防衛省の情報部門のように最新鋭の電波傍受装置や大勢の傍受要員は持っとらん。外務省のように何千という海外要員を在外公館に張り付けることもできん。警察の警備・公安のように全国に膨大な数のアシもない というわけで本書の表現だと「最小にて最弱のインテリジェンス機関」だそうだ。公務員の安定を求めて、何が因果かこの公安調査庁にシューショクした主人公壮太は、神戸の事務所に勤務していた。ある日ジョギングの途中で見かけた工事現場の施主、エバーディール社の名前が、映像記憶の特技を持つ壮太の注意を引いた。この会社は「千三ツ屋」と呼ばれるシップブローカーだが、北朝鮮からの密輸などの疑惑がかけられていた。船舶の仲介会社が不動産に手を出しているのに不審を抱いた壮太はこれをきっかけに、神戸を舞台とする諜報の騙し合いの世界の秘密に迫っていく... まあこんな話。「諜報機関の盲腸」と揶揄される職場だが、厳しい上司の柏倉、「アラビアのロレンス」を白馬の王子と夢見る乙女であることから、Missロレンスとあだ名される同僚などとともに、成長していく...とノリはエスピオナージュというよりも、ライト感覚の企業小説。壮太は「ジミー」とあだ名されるくらいの地味男。でも祖母が松江で古美術商を営み、このエバーディール社の社長夫人が表千家の茶道教室を開いていることから、内情偵察のために茶道教室に通うことになる。茶道ミステリとして名前が挙がっていることもあって、読んでみたんだ。 茶道描写は的確。稽古風景は言うに及ばず、ターゲットのパーティで先生が呈茶する手伝いをするとか、接触を求めて来たらしい外国人と一緒に茶事のお客になるとか、しっかりした知識が窺われる。まああまり派手な事件が起きるわけではなく、公安調査官という特殊な職業を選んだ青年の成長物語、という感覚の本である。諜報活動の詳細などリアルに描かれているが、地味だね、ホント。そこらへんスパイ小説というよりも企業小説。評者神戸とは縁が深いから、街の感じがなかなかうまく表現されているのも好印象。 印象はいいのだけども、淡々とした小説で、ミステリ的興味は薄い。 |