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ミステリの祭典

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鳥(早川書房ポケット・ミステリ版)

作家 ダフネ・デュ・モーリア
出版日1980年01月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 クリスティ再読
(2025/08/17 19:28登録)
さてポケミス版「鳥」を選んでしまったが、実はこの収録作は創元文庫の「鳥―デュ・モーリア傑作集」のサブセットだ。ポケミスでは読まずに創元で読んだ方がよかろう。
書誌的なことを言えば、最初の短編集(英版) "Apple Tree" (Gollancz、1952)には「瞬間の破片」「動機なし」は収録されてなくて、この米版"Kiss Me Again, Stranger"(Doubleday, 1953)で追加された2作になるから、これが底本ということなる。英版ではこの2作は"The Rendezvous and Other Stories" (Gollancz, 1980)に収録されている。ややこしいな。

「鳥」"The birds" 言わずと知れたヒッチの神映画の原作。とはいえ、ある農夫の一家の視点で描かれる。一家の鳥たちとの攻防が描かれるわけで、雰囲気は戦争小説、とくに核戦争を匂わせているようにも読める。だから核戦争後に生き残った家族の孤立の話みたいな印象。映画にあったロマンス要素はないし、出エジプトを思わせる聖書的な結末もない。かなりシンプルで、ヒッチが大きく内容を膨らませていることがわかるし、映画での追加部分が効果的にもなっている。
「瞬間の破片」(「裂けた時間」)"The split Second" 家に帰ってみれば、見知らぬ人々が自分の家を占拠しており、困った主人公は警察に訴えるのだが、正気を疑われてしまう... 確かに納得の仕掛け。「世の中どんどん悪くなる」。娘が気がつかないのが、とても悲しいなあ。
「動機なし」(「動機」)"No Motive" 突然理由不明の自殺を遂げた男爵夫人。男爵は私立探偵を雇ってその動機を追及した...しだいに暴かれていく夫人の過去。「聖母マリアさまに起こった出来事は、この世でもっともすばらしいことだと言ってお説教しているくせに、なぜあたしは叱られるのだろう」の哀切。

というわけで、粒ぞろいの面白さ。でもどうしようもなく「悲しい」話ばかりだなあ。

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