みな殺しの歌 |
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作家 | 大藪春彦 |
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出版日 | 1978年10月 |
平均点 | 6.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 6点 | 斎藤警部 | |
(2025/06/27 00:19登録) 内容は暴力のポルノグラフィだが、どっしり構えたハードボイルド文体には眼を瞠る。 弾丸が人体にどんな損壊を与えるか等、医学的に具体的に簡潔に描写してくれるのが良い。 銃器・弾薬とその機能詳細に関する高効率でリアリティ溢れる、何より絵が浮かぶ説明は素晴らしい。 「一時、兄貴は荒れに荒れた生活をして、俺もよっぽど殴り殺してやろうかと思いこんだ時期があったな。 そんなとき、兄貴は君と会ったのだ」 婚約を機にスッ堅気となるため、犯罪組織を抜けようとした兄貴を見せしめの慰み物に弄殺惨殺した七人の腐れキンタマ野郎共を一人残らず、奴らが兄貴にやった如く極限までいたぶって弄んで苦しめてから屠ってやろうと硬い決意を魂に刻んだ主人公。 物語の途上には多種多様の銃器が登場しその本領を発揮するが、中でも主役級はワルサーP38。 所持しておられる方はホルスターにセットして読むと良い。 "あんまり射ちまくったので、耳がおかしくなってきた。" 冒頭の屠りシーンを一読し、こりゃあきっと全篇イェイェイェ・イェイイェイ・イェイ・イェイェイなゴーゴー・ムードの、ドイツもコイツもアンタも豪快爽快殺戮血みどろ硝煙ファンタジーに違げえねえと決めつけていたら、微妙に違った。 てっきり、シ(ヒ)ットリストの標的を一人ずつ地獄に叩き落して行くシンプルな様式のストレス発散物語かと思っていたら、意外と傍流にも伸びるちょっぴり複雑なストーリー。 でも芯はまっすぐだ。 但し、純粋な復讐物語と思い込み主人公に肩入れして読んでいると、まるでこれも必要経費だとばかりに、行き掛かり上、逃亡の都合上、やらざるを得ない "それ以外の" 殺人やら非道行為が多すぎて、嵩じて主人公への反感や疑念まで湧き上がって来る始末。 これは悩ましい。 また、兄貴への愛情と兄貴を惨殺した豚共への復讐心が、特に物語の途中から、物語最大のテーマである割にしっかり表現されておらず、むしろ薄まって来るように見受けられる。 懐かしの平成ドラマ「二十歳(はたち)の約束」で牧瀬里穂演じる主役の "殺された兄貴" への愛情がさっぱり伝わって来なかった事案を思い出した。 あともひとつ、台詞の発話者が誰なのか分かりにくい箇所が何気に多いのが実際的な難点と言えるが、まあ目をつぶろう。 ラス前の予期せぬ友情シーンには思わず頬が熱くなった。。。。 が、な、なんなんだこの、意外な結末!! 【ネタバレ】 てっきり復讐を完了させて、最後は相討ちで主人公もあの世行きだと思ってたら、、おいおい、こいつはもしや、続篇でもあるのか?! (あるそうです) いいこと教えてあげます。 この小説のBGMにはハル・ブレインのアルバム "サイケデリック・パーカッション" が絶妙にしっくり来ます。 次善策は無音です。 "さきほどまであくびをしていた重傷の鴨は死んでいた。 衣川はハンター帽を脱いで、チラッと頭をさげた。" ← 少し前からここまでのくだり、沁みたねえ |