home

ミステリの祭典

login
子犬を連れた男
シムノン本格小説選

作家 ジョルジュ・シムノン
出版日2012年08月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 クリスティ再読
(2025/06/21 22:19登録)
タイトルからチェホフの「子犬を連れた奥さん」を連想するけども...確かに不倫があったりストーカーまがいのことしたりとかの共通点はあるんだけど、強い関係はないかな。シムノンは修業時代にロシア文学をよく読んでいた話があるから、ある程度踏まえる意識はあったんだろうか。

まあ確かに日記書いて自身の思考を自己分析したりする構成自体がロシア文学っぽいところもあるかな。主人公は刑務所から出所してパリの街角の古本屋に雇われた初老の男。最初は金魚を飼ったが野犬収容所からプードル系雑種のビブを飼うようになった。刑余者で余命いくばく?の身の上もあって、世間との交流をほぼ断っている孤独な生活だが、その寂しさを紛らわす...というのも違う気もする。とはいえこの犬のビブがこの小説の副主人公みたいなもので、印象的。さらに言えば、刑余者と知りつつ主人公を雇う古本屋の女主人アンヌレ夫人が好キャラ。老齢で体が動かなくなっているために主人公を雇ったのだが、どうやら街娼から娼館を営むまでに成功した過去があるようだ。そんな女性なので人物洞察に長けている。自殺衝動を持て余す危うい主人公の身を案じつつも、主人公の日記を通じて過去の事件が徐々に明らかにされていく...主人公にとって「真の動機」は何だったのだろうか?

こんな小説だから、ホワイダニットと言えばまあそうか。ペットというのは、アニメだったら主人公の秘めた感情を描写するための暗喩的なツールのわけだし、感情の産婆的な役割を果たす老女というのも、「探偵」の一種と見るべきかもしれないね。

というわけで、ミステリとは言い難いが、ミステリ的な雰囲気だけはちゃんとある。ニアミスでいいと思うし、評者は好き。結末は...シムノン、甘くないんだよね。

1レコード表示中です 書評