home

ミステリの祭典

login
癒えない傷
私立探偵レオ・ハガティー

作家 ベンジャミン・M・シュッツ
出版日1990年07月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2025/05/28 16:35登録)
(ネタバレなし)
 未知の病気エイズ問題に世界が震撼する1986年。全米ではアメリカの海外派兵に反対する過激派テロリストが活性化し、無差別爆弾で命を落とす市民も出ていた。その被害者のなかには、「わたし」こと私立探偵レオ・ハガティーが少し前に出会ったばかりの人々もいた。そんなハガティーは旧知の弁護士ネイト(ネイサン)・グロスバードの仲介で紹介された女性マルコ・ヴァースケイスから、先日ホテルで変死した夫マルコム・ドネリーの死亡状況について調査依頼を受けた。ドネリーは自殺とされかけているが、それだと現在の保険の契約状況では保険金が下りず、一方でマルコには夫の死に不審を抱く根拠らしきものがあった。ハガティーは調査に乗り出すが、事件はやがて予想を超えた奥行きを見せていく。

 1987年のアメリカ作品。私立探偵レオ・ハガティーもののシリーズ第3長編。
 原書ではまだ数冊以上シリーズが継続し、ハガティーの立ち位置はけっこう面白そうな方向に行く気配もあるが、日本での翻訳はこれで打ち止めになった(あとはアンソロジーに入ったハガティー主役の短編が一本、日本語で読めるが)。
 第1作『狼を庇う羊飼い』以来、地味に好きなシリーズだっただけにちょっと残念。

 前作『危険な森』と同様に今回も、ベトナム帰還兵のタフな相棒と小説家の恋人を主人公の脇に配し「オレならこう書くスペンサーシリーズ」という趣も強い内容。
 とはいえその辺がやや~相応に鼻についた前作よりも、ずっと前提となるメインキャラシフトの扱いはこなれ、いきなり相棒アーニーを物語の表舞台から引っ込めてしまうとか、こちらなりの工夫は感じないでもない。
 なにより情報を集めるため、目の前に積み重ねられたタスクを消化していくハガティーの足さばきが、なかなか痛快で良い。特に情報を得るため、また情報をくれたサブキャラが重傷を負わされたのでその復讐のため、町のクズ(ただしそれなりに強い)と命懸けでやり合う辺りとか、実にオモシロイ。
 私立探偵の調査小説としては複数のサイドストーリーを交えながらも一本芯の通った作りだが、話の適度な膨らませ具合が本作を良質なエンターテインメントにしている。

 まあ最後の最後で物語の構造が(中略)という点は、ああフィクションだな、という感慨を抱かせなくもないが、もとよりこの作品そのものが<そういう形質のミステリ>なんだろうから、文句を言うのはいささかお門違いであろう。
 いずれにしろシリーズ第1作目のときめきには遠く及ばないが、前作よりはずっと楽しめた。繰り返すがこれで邦訳が終わり、というのはちょっと残念。

 しかしネオハードボイルド系の私立探偵シリーズ(5冊以上)で長編の邦訳が完走したのって、どのくらいいるんだろう? コレはそうなんだろうといえるのはスペンサーとマット・スカダー、タナー、サムスンくらいか? たぶんもうちょっといるだろうが、一方でそんなに多くない、という感触もある。

1レコード表示中です 書評