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ミステリの祭典

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ゆるやかに生贄は

作家 ドロシイ・B・ヒューズ
出版日2025年05月
平均点8.00点
書評数1人

No.1 8点 人並由真
(2026/01/31 07:25登録)
(ネタバレなし)
 その年の5月初旬。ロサンジェルスの青年インターン、ヒュー・デンズモアは、20歳の姪クライティの結婚式に出席するため、アリゾナ州フェニックスに愛車で向かっていた。だが砂漠のハイウェイでヒッチハイクをしているアイリス・クルームと名乗る10代の少女に出会い、仏心を起こして彼女を乗せてやったことから、ヒューは予期しない事態に巻き込まれていった。

 1963年のアメリカ作品。ヒューズの第16番目の、そして最後の長編。
 ヒューズの翻訳がある長編のうち、「別冊宝石」掲載の2作を除いて、書籍化された邦訳は3冊とも読んでいる。十数冊の著作の中からセレクトされて? 翻訳された作品がそれなりに出来がいいのはまあ当然といえば当然だが、どれもそれなり以上に面白かった。

 いずれにしろ本書は、先の訳書『青い玉の秘密』の邦訳刊行から、ちょうど10年ぶりの旧作発掘新訳紹介である。それで少し楽しみにしてはいたが、刊行されてから半年以上たってようやっと読んでみた。

 全体の4分の1くらい読み進んだところで、ああ……というサプライズがある。
 本書の解説(吉野仁氏の担当)ではネタバレを断った上で解説してあるのでまだいいが、Amazonの内容紹介はちょっとアブナイ。なるべくなら目にしない方がいい。
 (ちなみに現状でレビューをくれている数名の購読者各人は、ちゃんと配慮した物言いをしており、リテラシーが高くてよろしい。)

 とはいえそのサプライズ自体がミステリ的な大ネタ、という訳では決してなく、むしろ巻き込こまれ型のサスペンス作品としてはその(軽い?)驚きを経た中盤以降がヤマ場となる。
 話の起伏の付け方に、ページタナーとしての職人性を実感。
 さすがこの作品までに実績20年以上のベテラン作家(どちらかといえば寡作で、本書の前の作品は11年前の1952年だったそうな)という貫録で、良い意味で話の幅を広げず、クライマックスのギリギリのギリギリまで主人公を追い込んでいく作劇はパワフルの一語に尽きる。

 まあ悪く言えばシンプルすぎるくらいシンプルな、曲のない……とまでは言わないにせよトリッキィさなどとは無縁な話、ではあるのだが、読み物小説として最高級に面白い。
(なお作品の内容に、時代性・社会派的なメッセージを感じてもいいが、むしろ<そういう主題>を具材にしたエンターテインメントとして楽しんだ方がいいだろう。)

 重ねていうが、ヒューズ面白い! これまで読んだなかでは本書が最高だったが、未訳長編がまだ10作近くあるのはもったいないなあ。もう少しどんどん発掘してほしい。

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