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ミステリの祭典

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ウツボカズラの夢

作家 乃南アサ
出版日2008年03月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 パメル
(2025/05/16 19:31登録)
主人公の斎藤未茉由は母親の死後、東京に住む叔母の鹿島田久子に引き取られることになる。都内の一等地で暮らす裕福な親戚の存在を知った未茉由は期待に胸を膨らませ上京するが、冷え切った夫婦関係や痴情のもつれ、親子間の行き違い、陰湿な争いなど決して幸福とは言えないものだった。未茉由はそんな中で生き抜くために、したたかにそして狡猾に立ち回ることを覚えていく。タイトルにある「ウツボカズラ」とは食虫植物であり、獲物を捕まえて養分を吸い取る性質がある。このタイトルに主人公の未茉由が周囲の人々を利用して生き抜いていく様を象徴していると言えるでしょう。
何気ない日常が巨大迷路のように襲いかかる恐怖。この作品は人間の欲望、嫉妬、孤独、そして心の闇をリアルに描き出している。登場人物たちの複雑な心理描写には、心を大きく揺さぶられた。また、格差社会、家庭内の不和、人間のエゴイズムなど、現代社会が抱える問題点を鋭く批判している作品でもある。特に富裕層の家庭で繰り広げられる人間関係の歪みは強い衝撃を与える。主人公の未茉由は決して共感できる人物ではないが、生き抜くための執念は、ある意味で人間の本質を突いていると言えるかもしれない。

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