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ミステリの祭典

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鈍色幻視行

作家 恩田陸
出版日2023年05月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 猫サーカス
(2025/05/10 18:30登録)
飯合梓の「夜果つるところ」は、謎に包まれた作家の代表作であり、三たび映像化が試みられるも必ず死者が出て頓挫してしまう、いわくつきの小説としても知られていた。小説家の蕗谷梢は、この呪われた作品を取材すべく、再婚相手である雅春に誘われるかたちで、豪華客船ツアーに参加する。そこには当時の映画関係者や担当編集者、飯合梓マニアの漫画家ユニットなどが乗船しており、取材をするには絶好の機会だったが、梢にはひとつ気掛かりなことがあった。雅春の前妻である脚本家の笹倉いずみは、映画「夜果つるところ」の本を完成後、自ら命を絶っていた。なぜ夫は、そのことについて語ろうとしないのか。梢と雅春、二人の視点で進行する物語は、取材相手の語りによってますます謎を深めていく。映像化のたびに起こる不慮の事故は、呪いか、何者かによる作為的なものだったのか。飯合梓とは、どんな人物だったのか。次から次に飛び出す知られざる逸話と疑惑、そして新たな解釈に加え、映画、小説、創作者の内面、読者や観客の存在といったものから、死生観や形に囚われない愛など、縦横に話題が拡がるめくるめく内容は、底の知れない大きな物語に深く呑み込まれる畏れと悦びを存分にもたらしてくれる。多彩な人物たちと様々な要素が次第に混ざり合い、タイトルの濃い灰色である「鈍色」に象徴される境地へ至る展開には、ただただ圧倒されるしかない。終盤、梢が皆を前にして語る仮説に息を吞み腑に落ちる。

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