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ミステリの祭典

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霧をはらう

作家 雫井脩介
出版日2021年07月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 猫サーカス
(2025/03/08 17:47登録)
物語は高校生・由惟の視点から始まる。妹の紗奈が入院する小児病棟を訪れた彼女は、どこか抜けているところがある母の野々花にうんざりする気持ちを隠せない。同室の子に対するおせっかい、その母親との諍い、さらにはナースステーションに勝手に入ったり、紗奈の点滴の速度を勝手に変えたりと、看護助手経験のある母の周りでは小さなトラブルが絶えない。そんななか、由惟の目の前で異変が起きる。女児二人が死亡、別の子供一人は重い後遺症を抱えることになった小児病棟点滴死傷事件が発生したのだ。犯人として逮捕されたのは、由惟と紗奈の母親だった。母子家庭の小南家は、野々花の逮捕と同時に娘たちの生活が一変、友人も離れ、近隣住民からは嫌がらせが続くようになる。大学進学をあきらめ就職した由惟は職場で壮絶なハラスメントを受け、紗奈は学校でいじめに遭い不登校になってしまった。丹念に描かれるのは弁護士の伊豆原の地道な足跡。そこに籠る彼の熱は読み手にも伝導してくる。検察側が何をどう裁判で証明するか、弁護側も何をどう主張するかという予定を互いに明かし、裁判をスムーズに進められるようにする、言わば裁判員裁判の舞台裏。そこでの攻防は裁判とはまた違った凄まじさがある。法廷ストーリーに奥行きをつくっているのが、心理描写。伊豆原と同様、由惟の信条の変化も細やかに紡ぎ出されていく。そこに社会問題ともなっている冤罪という要素も絡んでくる。クライマックスの裁判シーンでは、ある人物の言葉によってまさに「霧をはらう」ような驚きの展開が待っている。

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