鵜頭川村事件

作家 櫛木理宇
出版日2018年06月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 びーじぇー
(2025/03/06 21:52登録)
舞台は一九七九年六月のX県の鵜頭川村。岩森明は、幼い娘の愛子を連れて亡き妻の墓参りのためにこの村を訪れていた。長雨に包まれていた村は、さらなる豪雨で発生した土砂崩れによって孤立してしまう。そんな状況下で、ある若者の死体で発見された。村の有力者の息子の犯行が疑われるも、うやむやなまま幕引きが図られ、村に息苦しさが立ち込める。その村に異物として取り残された岩森と愛子は、村が歪み、秩序が壊れていく様を目撃することになる。
男尊女卑が当然。土建の仕事の力で村の秩序が決まる。そんな一昔前の閉鎖的な村を舞台装置として活用した圧倒的な迫力のパニック・サスペンス。力への陶酔、殺さねば殺されるという恐怖、日ごろの恨み。それらがお互いを触媒として密閉された環境の中で増殖し、正気を失われていく様を、読者にも当事者意識を持たせながら描いている。それに加えて、斧が腕に食い込み、トラバサミが足首をとらえる。そのような肉弾戦の刺激も圧倒的な描写力。さらに終盤では、この事態が発生したメカニズムも解き明かされ、人の心の歪みを深く思い知らされる。

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