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ミステリの祭典

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裂けた視覚
クレイジー・LP(東洋新聞社出版局局長 山西誠)

作家 高木彬光
出版日1980年04月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2025/02/10 06:37登録)
(ネタバレなし)
 世界有数の航空会社「オール・アメリカン・エアーラインズ」。その系列企業らしい、ホテル事業の新興会社「オール・アメリカン日本支社」。同社に求職した20歳代前半の伊東裕子(ひろこ)は、面接の末に同社の一員となる。だが裕子の話に何か違和感を感じたのは、その彼氏で「週刊東洋」(東洋新聞社)の28歳の記者・佐々木進一だった。やがて若き恋人たちの運命は、大きく急変していく。
(第一部「虚像の死角」)

 書籍元版のカッパ・ノベルス(昭和50年7月の40版)で読了。初版は昭和44年の11月。
「小説宝石」に昭和44年5~12月にかけて連載された作品で、第一部の「虚像の死角」を始めとする3本の中編で構成される、連作形式の広義の長編ミステリ。

 3本のエピソードの事件(犯罪)はそれぞれ別ものだが主要登場人物の一部は探偵役に限らず、次やその次の話にもまた登場。
 連作中編集といえないこともない一冊だが、そういう意味で、第一部から順々に読んでいくしかない、広い意味での長編的な構成になっている(作者自身は「連鎖推理小説」という呼称をカッパ・ノベルス版で使っていた)。
 各事件にからむ主人公というか狂言回しは佐々木青年記者だが、実際の探偵役はその上司かつ年の離れた先輩である50代の「東洋新聞」出版局局長・山西誠。「クレイジー・LP」の異名をとるが、これは当人が酔っぱらうと同じ話を何べんも繰り返したり、その一方で大事なところをとばしたりとか、溝に傷のついたレコードのような物言いになるから。たぶん高木彬光のレギュラー探偵役のなかでは、最もマイナーなキャラクターのはずで、このあと長編『女か虎か』にも登場するらしい(そっちは、評者もまだ未読)。

 で、本作の感想だが、第一部はジャンルミックス的な内容でツイストが効き、なかなか面白い。ああ、そういう方向の作品(ここではナイショだ)だったのか、とまとめの段階で軽く意表を突かれた。
 ただ続く第二部は話のネタ(宗教がらみ)はちょっと新鮮な感じだったが、お話の方がやや冗長。第三部は相場ネタに移行して、割と地味に終わった。
 作者が本来どういうものを狙ったかは何となく見えて、あとあとの話になるほど情報が積み重なっていく連作ものをやりたかったのだとも思う。つまり、作者の80年代に完結するあのシリーズのプロトタイプだと言えなくもない(こう書いてもなんのネタバレにもなってないはずなので、安心してください)。
 作者の実験精神とミステリ作家としての遊び心は評価するが、謎解き&他のジャンルのミステリとして熟成させきらないうちに、取材したネタの方の叙述に力点を置く方向で最後まで書いちゃったという感じ。
 できたものは決して悪くはないが、第二部以降はやや退屈で、送り手の当初の高い狙いが見えなくもないだけに、その辺はもったいなかったなあ、とも思ったりした。まあ高木ファンなら、ぎりぎり一読の価値はあるとは考える。

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