うしろにご用心! 泥棒ドートマンダー |
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作家 | ドナルド・E・ウェストレイク |
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出版日 | 2025年01月 |
平均点 | 5.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 5点 | 人並由真 | |
(2025/06/19 05:13登録) (ネタバレなし) プロの犯罪者ジョン・ドートマンダーは、馴染みの故買屋アーニー・オルブライトからの情報を得て、ニューヨーク在住の大富豪で女好きの57歳の投資家ブレストン・フェアウェザーの住居から高価な多数の美術品を奪う計画を練り、仲間と準備を進めようとしていた。だがドートマンダー一家がいつもアジトに使っている「OJバー」でトラブルが生じ、彼らはその事態への対応を強いられる。一方、マイアミに観光旅行に赴いていたフェアウェザーは思わぬトラブルに。 2005年のアメリカ作品。ドートマンダーものの長編・第12弾(全14長編。あと未訳4本)。 シリーズの翻訳は2009年に訳出された短編集以来、16年ぶりだそうで本当なら大喜びしなきゃならんのだが、なんせ評者はまだ未読の既訳の長編が5冊もあるので(さらに前述の短編集も手付かずだ)、正直あまり飢餓感も生じていなかった。 数年前に何十年ぶりに読んだシリーズ作品『天から降ってきた泥棒』は結構面白かったけど、気が付いたらそれから5年間、本書まで未読のドートマンダーものを一冊も消化してなかったし(汗)。 で、とにもかくにも本作だけど、3つの流れの話(そのうち2つにドートマンダーたちが直接からむ)が同時進行で少しずつ進行し、最終的にそれらのストーリーの脈流がどうなるか、は、もちろんここでは言わない。 ただし登場人物がネームドキャラだけで60人ちょっとで全500ページ以上。細部に愉快なシーンや緊張感を誘う場面はソコソコあるのだが、全体的にストーリーがそれそれ弛緩してる感触が強く、今回はどうもイマイチのれない。 遠い昔の記憶のなかのシリーズ初期三部作はどれも面白かったが、今回はなあ……う~ん、というのが正直なところ(汗)。 ひとことで言うなら、後期のマクベイン辺りにも通じるが、スティーヴン・キングやクーンツあたりの大部作品を意識しすぎて、紙幅が(本作の場合、それこそムダに)ありすぎて冗長。 久々のシリーズ未訳作の発掘を喜び、残りの作品の翻訳もぜひとも応援したいのは紛れもないホンネだけど、すみません、一方で本作は、読んだドートマンダーシリーズのなかでは、正直、一番つまらなかった(大汗)。 それでも終盤、ようやくマイアミ編の方で、メインキャラの一角ブレストンのドケチぶりギャグを含めて、いくらかギアが入った感じはあり、そっからはクライマックスまでそこそこ楽しめた。ヤマ場のまとめかたもああ、こういう流れね、と納得。良くも悪くも王道、悪い方で言えばいささか古い感じもしないでもないけれど、一方でこーゆークロージングがまったくなくなってしまった21世紀の新作ミステリ界はそれはそれで寂しいか、とか思ってみたり。 しかし12作目の長編だというのに、警察ってドートマンダー一家をまったくマークしていないのね? その辺はこっちが未読のシリーズ作品のなかで、何らかのイクスキューズなどがあるのだろうか? その辺りは、しつこいようで結局はお約束のポジションを保つおなじみのレギュラー警官キャラを配置している泥棒バーニィシリーズ(ブロックの)の方が、ずっとうまい気がする。 残念ながら今回はちょっと個人的にはハズレっぽいけど、既訳シリーズをしっかり消化しているファンが読めば、もっと楽しめるかもしれない? できましたら読んで応援してやってください。シリーズの翻訳完走そのものは、もろ手を挙げて賛成なので。 最後に、初期編では基本的にトラブルメイカー(というかお笑いボケキャラ)のはずのケルプが、今回は意外に有能なのに驚いた。パソコンに強いという新時代にあった設定も追加されてるし。長期シリーズのうちに、キャラの成分が多少変わったのかしらん。 |