home

ミステリの祭典

login
双頭の蛇

作家 西村寿行
出版日1979年01月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2025/01/23 07:56登録)
(ネタバレなし)
昭和51~52年(1976~77年)に、各誌に掲載したノンシリーズの中短編5本を集めた一冊。
 たぶん角川文庫のオリジナル短編集だと思う。

 以下、各編のメモ&寸評。

『狂った夏』……ヒッピーや暴走族たちの若い一団が牛耳る夏の地方の町。だがそこは町おこしをしたいが売り物がなにもない地方が、アウトローの彼らに提供した「裸祭り」の場だった。そんななか、行政とアウトローの癒着に反意を抱いた男は……。いきなりクレイジー度が全開の作品。本書全体の暴れ馬ぶりを予見させる中編。

『まぼろしの川』……親友・遠山の妻・慎子が、先祖代々続く実家の因習行事に向かったまま、行方を断った。二線級作家の影近は、奥行きのありそうな慎子の捜索のため、人員を集めるが。昭和の後半に香山滋の世界を寿行風に描くとこうなるのか……と思わせた引き続きクレイジーな話。終盤のやや唐突な切り返しの文芸が鮮烈。

『双頭の蛇』……安アパートから待望の高級マンションに越した一家。だが同家の夫婦は、同じアパートの住人の害意に惑わされる? 前2作より日常のなかの不穏さを主題にした話だが、不快かつどこか蠱惑的なゾクゾク感は最高クラス。二転三転の結末もよし。

『荒野の女』……アパートで起きた殺人事件。逮捕されて留置場に入れられた40歳代の女の肉体には、ある秘密があった。掛け合わせの倒錯趣味の行く付く先、という官能文学的な主題を扱った作品。ミステリというよりブンガクっぽいが、寿行ファンは題材の選択にもその料理の仕方や叙述のクセにも、あれやこれやとそれらしさを伺う。ここまでの4編が中編といえる長さ。

『呪術師たち』……新宿でひとりの老人が、課長職のサラリーマンに死相の発現を宣告した。わずかな余命におびえる男は、おのれの救命のため、ある思い付きにすがろうとするが……。やや短めな上、少し毛色の変わった話。寿行って、こういうのも書いていたんだ、という印象だが、これはこれで面白かった。

 以上5編、寿行らしいイカレた作品世界が、ひとつひとつ微妙に(最後のはそれなり以上に)ベクトルの異なる感触で、それぞれ楽しめる一冊。寿行は大昔から長編主体に読んできて中短編集はまだ二冊目だが、そういう短めのものも悪くない。
 後期のちょっとユルんでしまった気配のある長編なんかより、たぶんこっちの方が面白いだろう。

1レコード表示中です 書評