下り”はつかり” 鉄道ミステリー傑作選
鮎川哲也編

作家 アンソロジー(国内編集者)
出版日1982年03月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 クリスティ再読
(2025/01/14 20:10登録)
創元の鮎川傑作選のタイトルで「下り”はつかり”」を使っちゃっているのは、オールドファンとしてはちょっとばかり残念。1975年のカッパブックス「下り”はつかり”」といえば、このあと「急行出雲」などと続く鉄道ミステリ傑作選というイメージが強いんだ。
というのも、70年代までの鮎川氏というと酒もタバコもギャンブルもやらない堅物として知られていて、文壇活動には消極的な「孤高の作家」イメージがあったんだよ。探偵文壇といえば乱歩高太郎といった親分たちが取り巻きを引き連れて飲み歩くというカラーがあったわけで、そういうのから鮎哲さんは外れていた。
それが75年のこのアンソロに端を発して沢山のアンソロを編むようにもなるし、「幻の探偵作家を求めて」もやれば、「鉄路のオベリスト」を翻訳連載するとか、このアンソロをきっかけに業界リーダーとしての活動範囲がぐっと拡大した。そんな記念すべき本だと思っているんだ。
収録作は、城昌幸「ジャマイカ氏の実験」、乱歩「押絵と旅する男」、岩藤雪夫「人を喰った機関車」、大阪圭吉「とむらい機関車」、横溝正史「探偵小説」、芝山倉平「電気機関車殺人事件」、青池研吉「飛行する死人」、坪田宏「下り終電車」、土屋隆夫「夜行列車」、角田喜久雄「沼垂の女」、多岐川恭「笑う男」、鮎川哲也「下り”はつかり”」、加納一郎「最終列車」、星新一「泥棒と超特急」、森村誠一「浜名湖東方15キロの地点」、斉藤栄「二十秒の盲点」

それぞれに鮎川氏の軽い解説がついて、かなりボリュームあり。有名作家の有名作も目白押しなんだが、そういう有名作はハッキリ言ってどうでもいい。
このアンソロで「面白い」のは、芝山倉平「電気機関車殺人事件」、青池研吉「飛行する死人」、坪田宏「下り終電車」といった作品なんだ。
フツー知らないでしょ!ってなるような作家、作家紹介も「経歴その他一切不詳」とだけ書かれるような作家たち。鮎川氏が「新青年」「ロック」「宝石」といった雑誌の上だけで作品を知った作家たち(それも1作きりとか)の作品を丁寧に拾い上げているあたりなのだ。アンソロとはまさにそんな「追憶」を「愛」に変える行為だ。
評者も「飛行する死人」(「天狗」に発想してリアルなトリックで二連発。語り口佳し)、「下り終電車」(私鉄の終電の後に電車が通った?のアリバイトリック)、「電気機関車~」(絶対に作者は国鉄職員!)の3本がこのアンソロのトップ3だと言おう。
そんな鮎川氏の「愛」に打たれるアンソロである。

1レコード表示中です 書評