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ミステリの祭典

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海鳥の墓標

作家 日下圭介
出版日1978年10月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2024/12/16 05:46登録)
(ネタバレなし)
 母に病死され、さらに父親を轢き逃げで殺された「わたし」こと美貌の女子大生・朝吹沙枝子は大学を中退し、弟の研一を高校に通わせるためにOL生活に入った。だが22歳の現在、会社が倒産。一方で弟が重病で入院し、高額の治療代が必要になった。苦境の沙枝子は、たまたま出会った中年のジュエルデザイナー・生田満寿子の仲介で、中堅の貴金属会社「ワシオ宝石店」の店員という職を得るが、そんな彼女の周囲で予期せぬ事態が連続する。

 日下圭介の第四長編。作者の初期作は処女作で乱歩賞受賞作の『蝶たちは今…』を含む最初の三作をリアルタイムで読んでいたが、これは未読だった。元版の新書判は購入した記憶があるが、例によってどっかに行ってしまったので、しばらく前にブックオフの100円棚でたまたま出会った徳間文庫版で初めて読む(これで初期作品は第6番目まで消化じゃ~まあ70~80年代に読んだ作品の中身なんかおおむね忘却の彼方だが)。

 本作は序盤から途中まで、アニメ『小公女セーラ』みたいに、主人公のヒロインを苦難や理不尽なピンチが相次いで襲う流れ。蟻地獄のような苦境に落ちていく展開は息苦しいが、その分ページタナーとしての求心力は絶大で、高いテンションで読み進められる。ジャンルは雑な言い方をするなら、フランスミステリ風の醬油味ノワール・サスペンス。

 物語的をスムーズに進めるための、ややリアリティのない登場人物の続出や、その辺にからむ偶然性の多用など正直、ツッコミどころは多いが、フィクションとしての割り切りで受け止められるなら、これはこれでよく出来てるとも思う。要は物語の世界が狭すぎるんだけど、作者もそのへんは自覚してはいるのか、構成にあれこれと工夫をしている気配はある。
 
 最終的に明かされる事件の真相はそれなりに意外だが、むしろ本作の場合、さりげない伏線のいくつかの上手さが印象深かった。甘いポイントをどこまで許せるかにも関わるが、なかなかよくできたミステリだとは思う。

 ただね、ただね……。まあ、これは読み終わったヒトとだけ語り合いましょう。要は<こういうのが>スキかあるいはアリに思えるか、だな。
 強引でブロークンな力技がいっぱいの一冊だが、力作で佳作~秀作だとはいえるとは思う。やや迷いながら、この評点で。

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