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ミステリの祭典

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アバランチ・エクスプレス

作家 コリン・フォーブス
出版日1983年06月
平均点8.00点
書評数1人

No.1 8点 人並由真
(2024/11/20 21:59登録)
(ネタバレなし)
 1970年代半ば。東西の国際情勢が、デタント前夜の冷戦状態だった時代。KGB周辺の要人で西側諸国に情報を提供してきた謎の大物スパイ「アンジェロ」が、西側への亡命を希望してきた。「ブルーノ」こと時の米国大統領ジョセフ・モイニャン直下の諜報工作集団で、複数の国籍の精鋭スパイで編成される組織「スパルタ・リング」がアンジェロの身柄を迎えに合流地点のルーマニアに向かう。だがKGBの実力派幹部「幽霊大佐」ことイーゴリン・シャルビンスキー大佐もまた、自軍そして東ドイツの諜報組織GRUの面々を動かし、裏切者アンジェロの抹殺に動き出した。
 
 1977年の英国作品。65年にデビューの英国冒険小説作家コリン・フォーブスの第7長編。映画化されているのは知っているが、観たことない。

 先日、近所で開催された古書市でHN文庫版を100円で拾ってきて読んだが、評者は何十年ぶりかにこの作者の作品を……いや、もしかしたら初めてか?(汗)。例によって本だけは、何冊か買ってあるが(笑)。

 要人アンジェロを迎えた西側スパイチーム(多国籍メンバーの主人公チーム「スパルタ~」に、スイスやイタリア、オランダ複数の諜報組織が密に協力)の道中に、KGBとGRUの刺客が手を変え品を変えて襲い、それを撃退……。この図の連続を、多角的な視点描写で語っていく内容。
 ひとことで言えば懐かしの『隠密剣士』の第3部、松平定信の京都行きの道中を尾張藩の手勢の伊賀忍軍から護衛するロードムービー編、あの東西スパイ版と思えばたぶん一番わかりやすい。

 訳者あとがきでも先に自己弁護してるが、正に登場人物は全員が面白いお話を転がすためだけの駒。しかしその割り切った作劇の分だけの醍醐味は確実にある、厚みのある肉汁いっぱいのハンバーグみたいな作品。決して松坂牛のステーキではない。
 タイトル「アバランチ(雪崩)エクスプレス」の表意はちょっとだけ意外なタイミングで回収され(あまり書かない方がいいけど)、まだまだページはあるのに、あとはどーすんだと思っていたら、それ以降もちゃんと見せ場は用意されている。

 新旧世代のライバル作家が群雄割拠の20世紀後半の英国冒険小説文壇の場、これくらいサービスしなきゃプロとしてやっていけないよね、という感じの作者の気概は感じた。これはこれで、よく出来てはいると思う。

 まあヒトによっては薄っぺらい、文芸的な主張も観念もない読み物作品とケナすのかもしれんが、少なくともネタをギューギュー詰め込んだ作者の読者サービスぶりは、評価、である。

 自分の職分、執筆ジャンルを娯楽派冒険小説に割り切った作者の覚悟は感じられる作品。もうこの手の純粋培養エンターテインメントなんて流行らないかもしれんけど、タマに読んでよい意味でお腹いっぱいになった。
 評点は0.2点くらいオマケ。

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