去りゆく者の裁き |
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作家 | デイヴ・ペノー |
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出版日 | 1991年06月 |
平均点 | 8.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 8点 | 人並由真 | |
(2024/11/17 04:52登録) (ネタバレなし) その年の2月。アメリカはアパラチア中部のロック群。酒に酔って親の車を運転する18歳の若者ジミー・ジョーが、黒人の青年デューイ・ブレイクを、その妻マリーサの前で轢殺。そのまま、ひき逃げした。ジミー・ジョーの父ハッセル・ブランドは検察官で、すでに第13司法区巡回裁判官への昇格が内定している現地の法曹界の大物だった。少年のひき逃げを知った悪徳保安官バッド・ビル・マクーノスはブランドに事態を報告し、事件の隠蔽をはかる。だが28歳の新任検察官ジョシュア・ディバークとその妻兼秘書のクリスタは、真っ当な正義感から轢き逃げ事件の捜査に着手するが。 1987年のアメリカ作品。 作者デイヴ・ペノー(デヴィッド・エリオット・ペノー)は1947年生まれ。法曹界や報道記者の職場などで活躍ののち、専業作家に転身。9~10冊の著作を記したのち、1990年に43歳の若さで心臓発作で早逝した。 日本では本作の前後の時期に、警察小説ホイット・ピンチョン捜査官シリーズが4冊、ハヤカワミステリ文庫に収録(1990~92年)。つまり30年前の翻訳ミステリファンの間では、それなりの支持を得たようだが、本サイトには作家名の登録もなく、2020年代の現在では忘れられかけた作家かもしれない。 実を言うと評者も半年前までは全く未知の作家で、本作にもなんの接点もなかったが、出先のブックオフで今年の春季~夏季? に本書を100円棚で発見。ヒギンズのあの名作『死にゆく者への祈り』を想起させる邦題がなんとなく気になって、全くのフリで購入してきた。 で、昨夜から二晩掛けて読んだが、予想外に面白かったというか、とても良かった。 ひとことで言えば、80年代に臆面もなく(←これは良い意味で)、正にあのW・P・マッギヴァーンの社会派&アメリカの正義啓蒙ミステリの世界を再現している!? 地方都市の腐敗に挑む清廉な主人公とその仲間たちの苦闘の構図は確かに図式過ぎ、そこが旧弊ではあり、先に書いたように80年代になってまんま50年代風のヒューマンドラマミステリを臆面もなくよくやるわ、という感じではあるのだが、結局は、やはり、<ソコ>こそが、自分みたいなタイプの読者の魂に響く。王道? いいじゃないの! たとえば当時のアメリカ私立探偵小説のジャンルを鑑みるなら、ネオハードボイルド時代の渦中のど真ん中にあって、正統派やら変化球やら玉石混交にあれやこれやが混じり合う混迷のミステリ・シーンのさなか、あくまで真面目にこういうトラディッショナルなものをあえて著した作者の精神&根性に、すんごくホレます。 (まー、まだ一冊読んだだけでアレコレ言うのはナンだけど。) それだけに訳者あとがきで、本書翻訳刊行の時点で作者がすでに故人ということに、軽い~相応のショックを受けた(……)。 クライマックスのさなか、主人公ジョシュアの心がちょっとだけあらぬ方に向かう辺りとか、メチャクチャ泣ける。副主人公格の84歳の元裁判長長官ラフナー・スタームの造形とかもとてもいい。 ストーリーの流れがリズミカル過ぎて、なんか大映ドラマの面白い作品をまとめて(録画とか映像ソフトとか配信とかで)観ているような感じがなきにしもあらずだけど、それでもその上で、全体のソツの無さにまったくイヤミを感じない仕上がり。 若い頃に読んでいたら、もっともっと心に響いたかもしれんな。先にマッギヴァーンみたいと書いたけど、あともう一つ、連想したのはシェルドンの長編で一番好きな『天使の怒り』(どの作品にもネタバレにはなってないハズなのでご安心を)。 まー、こういう作品にタマにフリで出会えるからこそ、ミステリファンライフは楽しくなる。あくまで、個人的に、かもしれませんが(笑)。 |