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ミステリの祭典

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脱獄山脈

作家 太田蘭三
出版日1978年12月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 斎藤警部
(2024/11/16 21:40登録)
「懲役山岳会だ」

おお、足らんぞう、酒が足らんぞう ・・・ 山と釣りの人、太田蘭三のミステリ第二長篇。
冒頭より爽やかな自然描写が中和してくれたのは、生々しい腐乱屍体のスケッチ。 すかさず今度は ‘きれいな屍体’ の発見で逆説的に爽やかな風を吹かす。

府中刑務所から脱走した四人の男。 一人はオネエの窃盗犯。 一人は詐欺師のオヤジさん。 一人はヤクザの殺人犯。 もう一人、やはり殺人罪で服役する主人公は元警官。 彼らは中央線で西へと向かい、やがて日本アルプス縦走の山中逃亡生活に入る。 中途で一人の若い娘さんと合流し (こいつ、疑うべきなのか・・) 、 物語は転換点を迎える。 前述の殺人×2と、この脱獄劇の間には密接な関わりがあると主人公は言う。

「たのしかったよ。 ほんとにこの山登りはたのしかった。 こんなたのしいおもいをしたのは、生まれてはじめてだった。 …… 俺なんか、生まれてこの方、ちっともたのしいことなんかなかったけれど …… 」

呑み食いと、何気に音楽の話題がチョイチョイ出るのが良い。 “捜査側” の密着ビッタシチキチキ具合もたまらん。 なのに良い意味で少しはみ出たパッチワークのような、レイドバックしたカットバック。 捜査側の一員には、主人公の元同僚である親友がいる。 彼は面長で、ウマさんと呼ばれている。 他にも面長設定の人物が要所要所に妙に多く配置され、また作者は概して面長に好意的である。 俺も面長が好きだ。

「脱獄囚がこの後立山に逃げこんだという物騒な話もあるけれど、あんた方みたいな立派なパーティーもいて、山もいろいろですね」

山中での様々な出遭いと別れと犯罪。 有名無名の山々や有名無名の花々、どれも鮮明に絵が浮かぶ。 最終盤、終わって欲しくなくなっちゃうんだよねえ。。。 ほとんど “歌舞伎” のような最後の見せ場から、◯◯◯にも程があるラストシーンへと雪崩れ込む。 “真犯人像” から言っても構造的に本格推理ではなく、だが間違いなくミステリ範疇に属する、少し市街、主に山岳を舞台とした犯罪冒険小説。 男が疼く暴力シーンも適度にあり。 昔の角川文庫カバーには 「珍道中」 なんて書かれてますが、ユーモアと哀愁の風がほぼ交互に吹き抜ける’70年代終盤の佳き長篇です。

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