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ミステリの祭典

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沖縄海賊
別題『海狼たちの夏』

作家 笹沢左保
出版日不明
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2024/11/07 04:44登録)
(ネタバレなし)
 1960年代の半ば。「協信海上火災」の調査課に所属する32歳の草野周作は、その日の午後、実弟の義孝が機関長を務める貨物船「第一内外丸」が沖縄の周辺で沈没したらしいとの報を受け取る。協信海上火災の保険が掛けられていた第一内外丸には、米国人の実業家トーマス・パークスが荷主の高価な鉄合金ワイヤーが大量に積まれていた。被害の大きさもさながら乗員20人の安否も絶望視される。そんななか、客員として同船に乗り込んでいた男性2人の死体が洋上で見つかった。一方、草野は事故に臨んだ関係者の素行に不審を抱き、若手の同僚・神保幸四郎とともに沖縄に向かうが。

 元版は1965年にカッパノベルスから刊行。書き下ろしか連載作品かは現状、わからない(宝石社の笹沢ムックの島崎書誌を見ればわかるのかな)。
 ちなみに当家には大昔から本作と『盗作の風景』と合本で一冊になった『笹沢佐保の偽装工作』(ワニブックス)というのがあったハズだが、例によって見つからないので少し前に古書店で100円均一で買った徳間文庫版で今回、初めて読んだ。

 殺人事件は前半から起きるが、内容は推理小説というよりは民間会社の調査員を主人公にした冒険小説スリラーの趣で、海外の作家でいうならちょっと薄味になり始めて口当たりがすごくよくなった時期のアリステア・マクリーンの諸作に近い。あるいはどっかのタイミングのフランシス辺りか。
(物語のミステリ的な興味としては、主人公・草野の視点で、いったい沖縄の周辺で何が起きているのか、である。)  

 笹沢の60年代作品としてはいささか異質な感じの冒険小説(または英国系スリラー風)の一冊だったが、文庫巻末の作者著作リストを見ると本書の少し前には『死人狩り』だの『幻の島』だのクセのある長編が刊行されている。1960年にデビューしてすでに本書の時点で25冊ほども長編の著書がある(さらに短編集が十数冊)というハイペースな実績なので、ちょっとこの時期には変わったことをやってみたかったのかも知れない。

 時代設定と舞台設定(さらにタイトル)を見れば一目瞭然のように、物語の主題は日本返還前の沖縄の窮状に切り込んでいくが、重い真摯なテーマを語る一方で良くも悪くも例によって筆致は明快なのでサクサク読める。正直その分、本来はもっとこちらの心に響くべき重厚さがイマイチ伝わらないきらいがある(汗)。
 当時の現在形のリアルのなかで真面目なメッセージを丁寧に語ろうとする作者、そしてその主題を背負った登場人物たちにはどうも申し訳ない気分なのだが(大汗)。

 で、読了後にTwitter(現X)で本作の感想を拾うと「傑作」「名作」とかの声が飛び交っていていささか鼻白んだ。いや、よくって秀作の下、まあ佳作の上くらいじゃないかと。
 なんかさほど手ごたえを感じなかった自分自身に、いわれのない? 罪悪感を抱きたくなる一冊。
 同じ主題なら数年前に読んだ、作者自身が沖縄出身の神野オキナの『カミカゼの邦』の方がずっと心に響いた。まあそっちは2017年の当時のリアルタイムの新刊なので、臨場感も同時代感も当然のごとく読み手に密着しているが。

 つーことで、もろもろの感慨を込めて評点はこの数字の上の方です。いや決して悪い作品ではありません。ちゃんと感動も高揚感もあるのだが、それが良くも悪くもソコソコつーことで(汗)。

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