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ミステリの祭典

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第二の男

作家 エドワード・グリアスン
出版日1957年01月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2024/11/04 03:57登録)
(ネタバレなし)
 1950年代半ば(たぶん)の、英国ヨーク州。中規模の弁護士事務所「ヘスケス法律事務所」に勤務する「わたし」こと青年弁護士ミカエル・アーヴィンは、ロンドン出身の30歳前後の女性弁護士マリオン・ケリソンを新たな同僚に迎えた。そんなマリオンは土地の金持ちの老嬢シャーロット・モーズリーの殺人事件を担当。シャーロット殺害の容疑を掛けられた甥ジョン青年の依頼を受ける形で彼の弁護に当たる。アーヴィンを相棒に調査を進めるマリオンは、ジョンに不利な証言や状況証拠が集まるなかで、それでも依頼人の無実を確信。殺害の時間前後に現場で姿を目撃されたジョンのほかにもうひとり「第二の男」がいたはずだと、考える。

 1956年の英国作品。弁護士作家グリアスン(グリアソン)の長編第4作で、二冊目のミステリ。同年度のCWAゴールドダガー受賞作。
 グリアスンの邦訳作品は、ほかにもう一冊、処女作『夜明けの舗道』(1952年)が1970年の映画化にあわせて角川文庫から出ており(作者名は~グリアソン標記)、こっちも評者は持ってはいるが、まだ未読。

 このサイトに来てから、まだ本サイトにレビューのない創元の「現代推理小説全集」を気の向くまま少しずつ読んできて『血まみれの鋏』『ベアトリスの死』を消化したが、これがその流れでの3冊目。残るのはあと一冊ドイツの犯罪実話小説らしい『楽園の殺人』だけになった。まあこれもそのうち、読むだろう(もちろん、どなたか先に読まれてもいいですよ)。

 で、本作『第二の男』だが、ガチガチの法廷ミステリで、しかも内容は王道の冤罪? 容疑者の命がかかったタイムリミットサスペンス。
 まあ正直、途中まではマジメで丁寧な筆致が仇となり、いまひとつリーダビリティがよくない(でもツマラないわけではない)が、二度目の裁判辺りになると話の起伏が豊かになって、俄然面白くなってくる。
 ただまあ読者の推理の余地はほとんどない作劇で、読者は主人公の二人とその協力者の捜査の軌跡に付き合わされ、あとからあとから劇中に露見してくる事実や真実に振り回されるだけ。それでもさすがに終盤のサスペンスはかなり強烈で、クロージングにもある種の余韻はたっぷりとあるが。
(ちなみに翻訳は、中村&福田の創元版ブラウン神父コンビ。特に引っかかる箇所などは無かった。)
 
 ゴールデンダガー賞受賞という栄誉の事実に対し、あまり気負って読む必要はまったくないけれど、誰も読まずにこのまま埋もれさせるにはちょ~とだけ、惜しい感じもする佳作~秀作。
 中盤の加速感がイマイチ弱いので読了まで三日かかった(少しまた忙しいこともあったけど)けど、決してツマラン作品ではない。
 植草が解説で書いてる通り、この時代、世代の英国若手(当時の)ミステリ作家にしてはユーモア味が皆無なのはちょっとキツイかもしれんが、それもまた作風で味ではある。容疑者の青年ジョンのキャラクターが、妙にいい味を出している。

【2024年11月5日追記】本文を一部、改訂しました。自分が読む前に本サイトにまだレビューがない「現代推理小説全集」の一冊にカーニッツの『殺人シナリオ』を加えていたので(再確認したら、実際にはnukkamさんのご講評が先にありました)。nukkamさん、誠に失礼しました。お許しください。

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