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ミステリの祭典

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闇のオディッセー

作家 ジョルジュ・シムノン
出版日2008年11月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 クリスティ再読
(2024/10/21 16:38登録)
大げさなタイトルである。

シムノンがこんな大げさなタイトルをつけるわけもなくて、原題は「くまのぬいぐるみ」という可愛らしいものだ(苦笑)成功した産科医の主人公が自らの築き上げたものに急に「人生的な疑念」を抱きだして、とある悲劇的な結末にたどり着くまでのほぼ一晩の「オディッセー」を描く短い長編。
下層階級から成りあがったうらやむべき成功者の中年男が、一見恵まれた立場にありながらも突如それに反抗して身を滅ぼす話は、シムノンの十八番中のオハコというべきもので、メグレ物でも名作「第一号水門」やら枚挙に暇ないが、とくに一般小説側ではこれが顕著でもある。だからこんな大げさなタイトルにもなるんだろうが、本作の主人公は医者なこともあって、病理的な描写が丁寧になされる。読んでいると一種の離人症状とか、パニック障害っぽいものが描かれて、反抗という意味で「ツッパった」主人公が何か気の毒なようにも感じてしまう。
とくにこの主人公の父が、官吏をしていたが政治的な対立の中でスキャンダルをでっち上げられて退職に追い込まれ、そのまま家に閉じこもって死ぬさまが主人公に重ねられて、悲惨さを感じさせる。そんな中で「くまのぬいぐるみ」は主人公の息子が幼い頃に抱きしめた縫いぐるみと、主人公が半ば強姦するするかたちで手を付けた病院掃除婦のかわいらしさの形容でもある。この女性は妊娠してセーヌ川に投身自殺をしたらしく、それを恨んだ?身内からの脅迫状が届いたりもするが、あくまで背景的で深掘りはされない。
まあそんな小説。ミステリ的な興味は薄いが、シムノンらしさは堪能できるし、あっさり読める。

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