home

ミステリの祭典

login
飛花 山陰山陽小説集

作家 赤江瀑
出版日1995年07月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 クリスティ再読
(2024/10/18 13:13登録)
意外だけど、あれほど日本伝統文化に強い赤江瀑に「茶道ミステリ」がないんだよね。不思議。しいて言えば「灯籠爛死行」が茶道と切り離せない路地の石灯籠を扱っているほかに、この山陰・山陽を舞台にした作品だけで編んだアンソロの巻頭作「鬼恋童」が、萩焼茶碗を扱っている。
赤江瀑といえば下関出身だから、萩焼はご当地物になる。「一楽二萩三唐津」と呼ばれるくらいに、萩焼は茶碗では別格の扱いの一つ。とくに「古萩」と呼ばれる長州藩の藩窯で焼かれた江戸中期までのものは文化財級の扱いになる。こんな萩焼の窯元に秘蔵される名器「白虎」を巡って、妖しい茶碗に魅入られた三人の陶師の話。これはなかなか、いい。骨董の虚実、「闇」と釉薬の奥深くに隠れた名人の秘密の技が隠される話。

このアンソロは全16作収録。代表作級、というと「原生花の森の司」「花帰りマックラ村」が入っているが、これらは以前の書評で扱っているので略。「ホルンフェルスの断崖」は珍しく監視・目撃型の「密室殺人」を扱っている(苦笑)が、結構これバカミスというかファンタジーというか、トンデモなトリック。しかし、赤江瀑だから過激派政治ドキュメンタリーの悪影響で...とか動機もヒドいあたり、なかなかの奇作。まあ、赤江瀑の「悪癖」といえば、奇抜なネタ同士がうまくかみ合わなくて、作品に昇華しないことがある、というサンプルみたいな気もする。
同様な失敗は、画家が目撃した絞殺死体の傍らに落ちていた「三景」の櫛と「髪」へのフェティシズムと復讐譚が絡み合う「闇夜黒髪」。もったいないな~~という印象。少し整理したらいいのに、整理できないのが赤江瀑。

歌舞伎では、この花道の切穴から出入りする人物には、特別の定まりがある。どんな人物でも、やたら勝手にこの穴を使えるというわけにはいかない。特殊な舞台効果に使われることを除けば、この『スッポン』は、妖怪変化、あるいは忍術妖術使いだけが通ることを許された。舞台へのあやしい出入道なのである。

と説明される、赤江瀑お得意の歌舞伎ネタ「美神たちの黄泉」だと、男性モデルの主人公の話がどうも余計...引用部だけでも実にソソるんだがねえ。

逆に、占い師が予知する自らの死と、それを行きずりで警告した喫茶店員の「予知・占い」を巡る「野ざらし百鬼行」とか、戦中戦後の「飢え」を巡る親子の葛藤を描いた「金襴抄」あたりが、シンプルで「いい」話に仕上がっているようにも思う。

肩に力が入った話に名作も多くてその印象が強烈な赤江瀑だけど、やや力を抜き加減で書いたのにもいい作品があるよ。
(ヘンさで印象に残るのは「サーカス花鎮」。ヘンな笑いが浮かんでくる...)

1レコード表示中です 書評