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ミステリの祭典

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ミステリマガジン2024年11月号
特集:世界のジョン・ディクスン・カー

作家 雑誌、年間ベスト、定期刊行物
出版日2024年09月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 おっさん
(2024/10/13 10:51登録)
来たる2025年から、『ミステリマガジン』は季刊で再スタートを切るのだそうな(ただ皮切りの1月号は、特集「ミステリが読みたい! 2025年版」として、2024年11月25日発売予定)。
隔月刊の掉尾を飾る本号は、特集「世界のジョン・デイクスン・カー」と銘打って、本家カーの本邦未訳作品(十七歳のころに書かれた習作)と、世界各国の、カーの亜流、もとい後継者たちの珍しい短編三篇を配し、きちんとした解説を付した、ひさびさに昔の、月刊時代の『ミステリマガジン』(の平常運転の号)が帰ってきた、感がある内容です。
特集関連の「評論」が、実質、「〈セット読み〉でカーの魅力を再発見」という、小山正氏の副読本的エッセイ一編にとどまっているのは寂しいですが(この、合わせ読みの勧め、筆者ならカーの『夜歩く』にはガストン・ルルーのアレだな、とか、いろいろ勝手な想像を膨らませてくれるのが楽しいです)、表紙をドーンとカーのポートレートが飾った本号が、『ミステリマガジン』を見限って久しい層にも、ひさびさの “買い” であることは間違いありません。

特集の短編群だけ、軽く触れておきますね。
御大カーの若書き「運命の銃弾」(1923)は、ヒル・スクール時代に、自身が編集長をしていた学内の文芸誌に発表した、密室もの。古典的なトリックを、 “射殺” にアレンジしたのがミソですが……これは無理だったw。本サイトだと、弾十六さん(リチャード・コネル作「閃光」の翻訳、お疲れ様でした)あたりが読まれたら、ツッコミまくりでしょう。でも、ま、十七歳でこれだけのものが書けるのは、非凡というしかない。アガサ・クリスティー的な、語り口のトリックも、すでに試してますしね。
“スウェーデンのカー” ことヤーン・エクストルムの「事件番号94.028.72」(1968)と、 “中国のカー” こと孫沁文の「昆虫絞首刑執行人」(2022)は、ともに “ボクの考えた最強の密室トリック” 発表会の趣き。シロウトが計画的に人を殺すって、大変な行為だと思いますが、この犯人たちは、殺人なんて些事はササッと済ませて、そのあとの、密室を作る作業に全精力を傾注している印象を受けます。『黄色い部屋はいかに改装されたか?』(by都筑道夫)なんてものが存在しない、ミステリの世界線。ついでにいえば、そこには松田道弘の「新カー問答」もないww。
さて、と。
しかし、ともかく訳してくれただけで有難い、レベルのお話が大半なわりに、筆者の投稿のモチベーションは落ちない。なぜなら、ひとつ、凄くいいのがあったから!
ハイ、 “フランスのカー” ことポール・アルテの2022年作「妖怪ウェンディゴの呪い」(いやしかし、この陳腐なタイトルはなんとかならんかったか)。チェスタトンの「犬のお告げ」を連想させる導入から、半人半獣の怪物ウェンディゴの怪異に発展していくストーリーですが、これはねえ、密室ものではないんです。同日、ほぼ同時刻に、大西洋をはさんだフランスとカナダで、双子の兄弟がそれぞれの妻を同じ方法で殺害した――という摩訶不思議な出来事(偶然なのか、それとも?)の真相を、安楽椅子探偵となったツイスト博士が解き明かしてくれるのですが……
その解決は、科学と神秘のはざまに読者を誘います。論理的に解き明かせる謎と、解き明かせない謎が混然一体となった世界。もしかしたら、カーの下位互換のようなところからスタートしたアルテは、デビューから30年以上経たいま、覚醒し、円熟の時代を迎えつつあるのかもしれない、そんなことすら考えさせてくれる逸品でした。ハヤカワさん、アルテの短編集を出しませんか?(ムラのある長編より、いけると思いますよ)

あと、諸般の事情から、『死と奇術師』の作者トム・ミードの短編掲載が見送られたようですが、 “イギリスのカー ”枠が無いのは、やはり物足りなく思いました。筆者が編集者なら、この機に再評価を、ということで、ポール・ドハティを載せたかった。時代ミステリの書き手という面で、カーの後継者ですしね。しかも、アンソロジーThe Mammoth Book Of Historical Detectives (1995) に入っている“The Murder of Innocence”は密室ものとしてもグッドですよ。
あ、 “日本のカー ”は……えーっと、原稿依頼しなかったのか、編集部???

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