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ミステリの祭典

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乗取り

作家 城山三郎
出版日不明
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 斎藤警部
(2024/10/07 22:05登録)
“変わらないのは、桜色を帯びた青井の血色のよい顔、休みなく動く目、弾力のかたまりのような体だけであった。”

。。静謐と心の喧騒が折り重なるような、寂しさと心地良い疲れがおりなすような、忘れ難い不思議なエンディング。
この愛すべきエンディングへたどり着くための、ホットでユーモラスな、軽クライム? 軽ピカレスク? いんゃーァ 爽ピカレスク? 違いますよ! 爽クライム(?)小説でしょう、これは。 日本橋~銀座の百貨店では少し沈んだ老舗「明石屋」を持ち株で乗っ取り、本来のもっとキラキラした店に立て直そうと奔走する若き事業家の青井。 闇屋出身たるこの主人公と、彼に魅了され味方となる壮年~年配の男たち。 狙われた明石屋とその味方に付く老獪な男たち。 両者の間でさまざまな熱を発する者たち。 だが「視点」の位置にあるのは、或る一人の若い女性と言っていいかも知れない。 爽やかな怪人物が二人も登場する贅沢さ。 しかも怪人物ばかりやたらな直球勝負ばかりで面喰らう。 全く異質の主人公候補までシャイな横顔光らせて躍り出る熱い展開さえあった。 物語を追いかけて駆け出しそうになる程の面白さとリーダビリティは相当なもの。

「青井という男は、あらゆる術策を弄して向かってくる。気をつけなくちゃいかん」
“だれもがうなずいた。女将や女たちも、白いあごで弧をえがくようにしてうなずく。”

しかしま、読前は思い込みで「広義のミステリにじゅうぶん含まれる経済クライムノヴェルなんだろうなあ」くらいのスタンスで臨んだのだが、実際に読んでみると、もうちょっと謎を隠しても良さそうなところ、開けっぴろげ過ぎてミステリ風でもない? と感じるところ多々。 ミステリ性の希薄な「不慮の死」が続く所も一般小説っぽさを醸し出しているかも。 とは言え、やはりミステリを読む方に読んで欲しい痛快な一篇でありますね。 まあですな、本作を「犯罪小説」と呼んでは主人公の青井文麿氏に怒られそうなのではありますがね。

「いい逃れはききたくない。いったい、ぼくのどこがいけないんだ。一つ一つ洗い立ててほしい」

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