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ミステリの祭典

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乱歩先生の素敵な冒険

作家 高原伸安
出版日2003年05月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2019/05/28 02:08登録)
(ネタバレなし)
 半世紀の時を経た現在、「私」こと探偵小説作家(本名・上野一平)は、昭和7年、自分がまだ22歳だった時に起きた殺人事件の記録を整理し、小説の形にまえとめた。それは一平の当時の学友・田辺洋が書生として奉公する、何かと評判の悪い実業家・三垣剛造の邸宅で起きた連続密室殺人事件であった。その頃の一平は探偵小説作家の卵で、田辺から秋田県の田沢湖畔にある三垣家の近辺にあの江戸川乱歩がお忍びで宿泊しているという情報をもらい、憧れの大先輩に会えることを期待して現地に向かった。そこで同家に殺害予告状が届いていることを知った一平はやがて、同地に来ていた乱歩とともに、連続殺人事件の捜査に乗りだすが……。

 乱歩の死後、数十年経って公開されたドキュメントフィクションという、半ばメタミステリ的な形を取っている。作者はそれなりに資料を読み込んだらしく、乱歩ファンをくすぐるネタは相応に盛り込んであるが、総じて具をそのまま使った、工夫のない料理の仕方という感じである。
 そもそも「遠藤平吉」の名前を重要な登場人物のひとりに与えるのはいいとして、それが最後まで読んで「だから何?」という思いに駆られてしまった。フツーならこの事件を踏まえて乱歩先生の、あのキャラクターのネーミングは……とかの流れになるハズだよね。その辺はいいのだろうか。

 ひとつの殺人トリックを説明するために連続で6枚もの図版を使ったというのも前代未聞だと思うが、真相はそれに相応しい大仕掛けな馬鹿トリックで、これで本当にまったく痕跡が残らないものかと大いなる疑問が湧く。最後の殺人トリックもなんとも言いがたい豪快さで、ツッコミどころが山のようにある。形ばかりのクローズドサークルの演出もどうもおかしい(連続殺人の場から逃げ出そうと登場人物があがく描写などまったくなく、ちっとも緊張感が出てないので)。
 面白いことをやろうとして、ポイントとなるいくつかの局面で滑りまくった作品という印象。そもそも真犯人の一番大きな行動も……(以下略)。
 まあある意味ではかなりオモシロかった。ダメな作品だとは思うけれど、前述のおバカトリックを主軸に妙な熱量は感じられて、キライになれない。その辺を買って1点オマケ。

【ネタバレ警戒注意報】
作中で堂々と『アクロイド』と『孤島の鬼』のトリックをバラしている。まあその2つを読んでもいないでこんな作品に手を出す人は、かなり変わっているとは思うけれど(笑)。

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