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ミステリの祭典

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あなたの大事な人に殺人の過去があったらどうしますか

作家 天祢涼
出版日2024年04月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 HORNET
(2024/09/24 21:37登録)
 食品卸売会社に勤務する藤沢彩は、引っ込み思案で人付き合いも苦手。そんな彩が仕事で思い悩んでいた時、いつも無口な同僚の男性・田中心葉が声をかけてきた。その後もさり気ない心遣いで自分を支えてくれる心葉に、次第に心惹かれていく彩。だがある日会社の朝礼で心葉は、何の前置きもなく「ぼくは人を殺したことがあります」と告白をした―

 昨今の社会派ミステリで、ちらほら見られるようになった犯罪の「加害者側」を取り上げた作品。心を入れ替え、更生をめざす加害者と、「犯罪者」という見方を変えず、それを絶対に許さない世の中という構図はテンプレートではあるかもしれないが、それでも本作は、加害者である心葉に心を寄せる側の葛藤や、更生しつつある心葉の姿に揺れる被害者側の気持ちなどが丁寧に力強く描かれていて非常に面白い。
 被害者遺族と加害者である心葉の予期せぬ邂逅などは確かに非現実的だろうが、「加害者」「加害者を慕う者」「被害者」「無関係な第三者でありながら加害者を叩く者」というそれぞれの立場が巧妙に描かれており、非常に読み応えがある。
 被害者の母親が殺害されるという事件が、フーダニットのミステリとして組み込まれるのだが、その推理と解明は「ミステリ」といってよいものであったとも思う。
 相変わらずのストーリーテーリングと仕掛け。面白かった。

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