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ミステリの祭典

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真珠母の匣
とらんぷ譚4

作家 中井英夫
出版日2010年06月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 みりん
(2024/08/23 00:01登録)
『幻想博物館』『悪夢の骨牌』『人外境通信』に続くとらんぷ譚4 ♦️
ついに完結編はダイヤということで、神秘な宝石伝説になぞらえた摩訶不思議な物語かと思いきや、初老の三姉妹が主人公の地味なお話。戦後生まれが増えてきた1972年、いまいちど大正という時代を振り返る。大正時代を生きた三女は心の中にどこか空虚さを抱えており、卑屈で無欲な側面を持つ。宝石でいうとダイヤモンドやサファイヤを追い求めずに贋作で我慢する。タイトル『真珠母の匣』は大正時代≒戦争が三女に植え付けた諦観を表現したものだと解釈しました。本作はそんな人々への熱いエール。あとがきでは"戦争とはついに何だったのか"をこの連作の締めくくりにしたかったと述べていますが、物語の面白さを損なわずにこのテーマを描けているので、目論見は成功でしょう。とらんぷ譚という一連のシリーズとして読むと『悪夢の骨牌』の『薔薇の獄』あたりが境界線となって、まったく別物になっているという印象を受けました。
ちなみに『真珠母の匣』の続きとして、とらんぷのジョーカーに該当する『影の狩人』『幻戯』も載っていますが、両方とも独特で味わい深い良作です。特に『影の狩人』の友情でもましてや恋人でもない絶妙な男同士の関係が好きです。
これでとらんぷ譚全54話読み終わりました。『悪夢の骨牌』に収録されている『大星蝕の夜』が1番のお気に入りです。中井英夫は非ミステリ作家だけど、これからも少しずつ読もうかな。

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