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ミステリの祭典

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トーノ・バンゲイ

作家 ハーバート・ジョージ・ウェルズ
出版日1953年09月
平均点2.00点
書評数1人

No.1 2点 Tetchy
(2024/07/26 00:45登録)
これはポンダレヴォー家の栄光と挫折の記録である。
トーノ・バンゲイという奇妙な題名は人の名前を指すのではなく、語り部のジョージ・ポンダレヴォーの叔父エドワードが発明した一種の強壮剤の名前だ。そしてこの薬は彼らに巨万の富を生み出し、あれよあれよと事業を拡大していく様が描かれる。

本書は数多くの名作を書いたH・G・ウェルズの作品群の中でもほとんどの人に知られていない作品だろう。しかし本書は『タイム・マシン』や『宇宙戦争』、『モロー博士の島』と並んで英ガーディアン紙の読むべき1000冊に選ばれた作品の1つなのだ。

上下巻に別れた本書は上巻では主人公で語り部のジョージ・ポンダレヴォーの恋愛物語が語られる。いや彼の女性遍歴の方が正確か。
下巻からは事業者としてのジョージ・ポンダレヴォーとエドワード・ポンダレヴォーの物語へと展開する。強壮剤として売り出したトーノ・バンゲイをブランド名にして養毛剤、目に効く濃厚トーノ・バンゲイ、疲労回復剤として錠剤やチョコレートまで生み出し、ヒットを連発して事業を拡大していく。

冒頭にこの物語はポンダレヴォー家の栄光と挫折の記録であると書いたが、同時にこれは青年ジョージ・ポンダレヴォーの半生の記録である。彼が育った地方の金満家での暮らしとロンドンでの享楽の日々、そして彼の恋愛変遷とトーノ・バンゲイを中心とした叔父エドワード・ポンダレヴォーの片腕として経営に携わった彼の波乱に満ちた物語である。

色んなことに興味を持ち、そして色んな分野に事業を拡大し、そして様々な階級や分野の人間に出遭えるロンドンで人付き合いもしながらも、これほどまでに人脈が得られない人物も珍しい。最後の最後まで彼は独りなのである。

しかしなかなか内容が入ってこない作品だった。使われている漢字が旧字体であるのも一因だろうが、最初のうちは戸惑うものの、慣れてくればさほど問題ではなくなってくる。
また下巻では新字体になっていることから決して字面に由来するものではないだろう―しかし下巻が新字体に改められているのなら、上巻も修正すればいいのでは。これは下巻の訳出が上巻刊行の7年後になったことが関係しているのだろうか―。

問題は物語に起伏が感じられないのと、語り部のジョージ・ポンダレヴォーの思考が見開き2ページにぎっしりと書かれた文字によって語られ、その内容がなかなか頭に入って来づらいのだ。

ポンダレヴォーは最後、自分で書いた自叙伝めいたこの物語の草稿を振り返って激しい活動と無理な推進とそして空しい不毛との物語だと評し、更に「トーノ・バンゲイ」という題名よりも「空費」とした方がよかったと述べる。
まさに私にとっても空費の読書体験であった。

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