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ミステリの祭典

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東野圭吾公式ガイド 作家生活35周年ver.
東野圭吾作家生活35周年実行委員会

作家 事典・ガイド
出版日2020年07月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 Tetchy
(2024/07/24 00:24登録)
本書は2012年に東野圭吾25周年祭りというイベントの一環で刊行されたガイドブックの増補改訂版である。

前回よりもマイナーチェンジしたのが読者投票による人気ランキングの記事だ。これが25周年記念の時の再録で、しかも前回が20位までの紹介とそれ以降のランキングが載っていたのに対し、今回は10位までの紹介に留まっているのが残念だ。正直前回から10年経っていることを考えると読者層も広がっているだろうから、再度読者投票のイベントをした方がよかったのではないだろうか。ただコロナ禍でそのような大々的なイベントが出来なかったのかもしれないが。

このように内容としては前作に若干デコレーションが施されたようなものだが、それでも今回加わった記事の中には興味深いものもあった。

まずはなんといっても東野氏がマスカレードシリーズの続編を考えていることが判ったことが大きい。一流ホテルへの潜入捜査という限られたシチュエーションのこのシリーズだが、その制約の大きさゆえに『マスカレード・ナイト』までが限界だろうと思われたが、東野氏は『~ナイト』を経たことでシリーズとしての今後の可能性が見えてきたとのこと。

あと『素敵な日本人』は私が推測したように当初は季節ごとの短編ミステリを書くことにしていたのが、別の注文として受けたSF短編が評判が良かったため、結局企画が破綻してしまったとのこと。多分触れられているのは「レンタルベビー」のことだと思うが、私は逆にそれで良かったように思う。

あとは本書で私がこれまでの作品で気付いていたミッシングリンクについても触れられていたのは残念だ。そのリンクについては敢えてここでは触れないでおこう。

あとやはり巻末に据えられたロングインタビューは非常に興味深く読めた。
なぜこれほどまでに出せば売れる作家になったのかについてその前と後の違いが聞けているのが素晴らしい。スノボで自身の大会を開くまでになっていたことやスノボを通じて様々なジャンルの人々と出会い、ネットだけでは築けなかったであろう人間関係についても触れられており、共感を持てるところもあった。

またベストセラーを次から次へ生み出す東野氏が生まれる萌芽となったきっかけが1997年に空白期間を敢えて設けたことが明かされている。
それまで年間5,6冊ぐらい出版していた作者が敢えてここで白紙に戻したのは出版しないことで自らの存在感を読者に抱かせるための戦略だったと明かされる件はかなり驚いた。

東野氏が今なおベストセラー作家であるのは、彼が人と交流し、そして関心を常に外に向けているからだ。彼は自作が売れることで出版社が潤い、そして他の売れない作家たちの作品の出した損失を補填していることを十分理解している。だからこそ彼は使命感を持って臨んでいるのだろう。

しばらく東野圭吾氏はトップの座を譲りそうにない。本書を読んでその思いを強くした。

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