2021本格ミステリ・ベスト10 本格ミステリ・ベスト10 |
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作家 | 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 |
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出版日 | 2020年12月 |
平均点 | 7.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 7点 | Tetchy | |
(2024/07/12 00:35登録) 『このミス』と本書2つはランキングが似通ってきたのだが、この年のランキングについて両者を比べてみると『このミス』2位であった阿津川辰海氏の『透明人間は密室に潜む』がランキングを制しており、一方『このミス』1位の『たかが殺人ではないか』は4位となっている。やはり本格ミステリに特化したランキングだけに本格ミステリとしての純度の高い方が数多くの支持を得ているようだ。しかしだからといって両者の特色が色濃く表れているわけではなく、例えば本書内のランキングと『このミス』のランキングを先述の2作を除いて()内に記してそれぞれ比べてみると 2位『蟬かえる』(11位) 3位『名探偵のはらわた』(8位) 4位『楽園とは探偵の不在なり』(6位) 6位『ワトソン力』(20位圏外) 7甥『欺瞞の殺意』(7位) 8位『鶴屋南北の殺人』(20位) 9位『法廷遊戯』(3位) 10位『エンデンジャード・トリック』(圏外) と10位内に重複する作品が8作もあり、また両者とも10位圏内の作品も6作もあると、やはり投票者が重なっていることと、それぞれのランキング本の趣旨を理解して選出作を意識して変えている投票者が少ないこと、もしくは投票者の多くが本格ミステリ好きが多いことがその要因のようだ。 11~20位を見てみると両者のランキングでも20位圏内の作品は『立待岬の鷗が見ていた』(20位)『巴里マカロンの謎』(19位)、『あの子の殺人計画』(16位)と3作品とかなり重複作が少なくなる。つまりこれは11~20位内のランキングの方に本格ミステリ度が高くてマニアの支持を得ている作品が多いように思える。 さてやはり驚愕なのは阿津川辰海氏の1位獲得だろう。僅かデビュー4年目にしての1位獲得はでデビュー作がいきなりランキング1位を獲得した今村氏、2年目の井上氏に次ぐ快挙である。本書に阿津川氏のインタビューが載せられており、そのことについては後述するが、東大卒でもあることからかなり頭のいい作家なのだろう。『このミス』でも既に彼の作品が毎年ランクインしているが『本格ミステリ・ベスト10』ではデビュー作以降全てがランキングしている。 また海外のランキングは『このミス』同様ホロヴィッツの『その裁きは死』が2位に2倍近い得票差を付けて断トツの1位。個人的にはこのホーソーンシリーズ、本格としての端正さは認めるものの、主人公のホーソーンのキャラクターが好きになれないため、あまり手放しで喜べないのだが。 2位以下の作品で『このミス』のランキングと重複しているのが2位『網内人』(14位)、5位『死亡通知書 暗黒者』(4位)、6位『指さす標識の事例』(3位)、7位『カメレオンの影』(12位)、8位『死んだレモン』(16位)、9位『ザリガニの鳴くところ』(2位)、10位『時計仕掛けの歪んだ罠』(8位)と8作、10位圏内が5作とこちらも似通っている。ただ2020年はコロナ禍により新訳の海外ミステリの点数自体が激減しているため、母数自体が少ないのだからこれは致し方ないかと云える。 さてその他の企画や特集だが、まず何といっても阿津川辰海氏のインタビューだろう。先述のように今の彼の作品の質が圧倒的な読書量に裏打ちされていることが判る内容となっている。彼はずっとミステリを読んで育ってきたようでとにかく読書量が凄い。しかも新本格のみならず古典ミステリにも触れた、かつて綾辻氏や法月氏と云ったミステリの申し子の本格ミステリ作家とも云える人物である。第2の米澤穂信氏になるような、本格ミステリの旗手となることを期待したい。 この年はやはりコロナ禍というこれまでにない社会状況の変化ゆえか、投票者も書店に行く機会が減ったことでずいぶん情報制限がかかったランキングになったのではないか。 例えば文芸誌や週刊誌で取り上げられた、話題の作品には目を通すがそれ以外の書店に行かないと見つけられない作品などはあまり俎上に上がらなかったのではないだろうか。 また海外ミステリの出版点数の少なさには特異な状況とはいえ、何とも云えない哀しさを感じる。寧ろ逆にこれまで絶版となっている傑作・佳作の数々を新訳版として出してくれるといいのだが。 このコロナ禍という特殊な世相での年末ランキングとなった本書を読んで、やはりこのような企画本はその年その年の世相を映す鏡の役割を果たすのだと強く感じた。 数年後、いや願わくば3年後ぐらいに本書を読み返したときに、ああ、こんな時もあったなぁと思うことだろう。 |